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NO.061Part11 / データインテグリティ

FDA 21 CFR Part 11とは?電子記録・電子署名の要件と、現場記録のデータインテグリティ点検リスト

「紙をやめてExcelに入力しているから電子化できている」——この認識が監査で通用しなくなっています。医薬・医療機器のFDA 21 CFR Part 11やPIC/Sのガイダンスで確立された「電子記録が満たすべき条件」は、いまや自動車・食品・化学の品質監査にも思想として波及しています。Part 11の中身(オーディットトレイル・権限管理・電子署名)、Excel運用が突かれる3つの欠陥、そして自社を点検できるチェックリストを解説します。

公開QUALIKEEP 編集部
Part11データインテグリティ監査証跡品質保証電子記録

この記事の要点SUMMARY

  • Part 11はFDAの電子記録・電子署名の規則。医薬向けだが、その考え方(監査証跡・権限管理)は全産業の監査に波及している
  • Excel運用が突かれる急所は3つ=共有ID(帰属性)・後からの書き換え(正確性/原本性)・後追いのまとめ入力(同時性)
  • 対策の中心はオーディットトレイル。変更を防ぐこと以上に「変更が隠せないこと」が問われる

「紙のチェックシートをやめてExcelやタブレットに入力しているから、うちは電子化できている」——多くの現場がそう考えています。しかし監査官が見ているのは「電子化されているか」ではなく、そのデータが後から改ざん・捏造されていないと示せるか(データインテグリティ)です。この観点を最初に体系化したのが、FDAの 21 CFR Part 11(電子記録・電子署名に関する規則) でした。医薬・医療機器向けの規則ですが、その考え方は現在、自動車(IATF 16949)・食品・化学の品質監査にも思想として広く波及しています。

Part 11とは何か ― 紙の記録を電子で置き換える条件

Part 11は、米国の連邦規則(21 CFR)のうち、電子記録(Electronic Records)と電子署名(Electronic Signatures)を、紙の記録・手書き署名と同等に扱ってよい条件を定めたパートです。1997年に発効し、その後FDAはスコープを限定するガイダンス(2003年)を出しましたが、「電子記録を信頼するために何が必要か」という骨格はいまも生きています。欧州のGMP Annex 11やPIC/Sのデータインテグリティ・ガイダンスも、同じ思想を共有しています。

重要なのは、Part 11が求めているのは「高価な専用システムを買うこと」ではなく、記録の作られ方・守られ方に関する構造だという点です。主な要求は次のように整理できます。なお、医薬・医療機器以外の一般製造業にとって実務上の中心になるのは、上2つ(監査証跡・権限管理)です。

要求の柱中身現場での意味
監査証跡(Audit Trail)作成・変更・削除を、誰が・いつ行ったか自動記録し、元の値も残す「後から直したこと」自体は問題でなく、隠れることが問題
アクセス制御・権限管理システムを使える人を限定し、権限に応じて操作を分ける共有ID・全員が管理者、という運用が最も突かれる
記録の正確性と保護保存期間を通じて、正確に読み出せる状態を保つファイルの上書き・消失・読めない形式は不適合の温床
電子署名署名者を一意に特定し、署名と記録を切り離せない形で結ぶ医薬等で承認行為を電子化する場合の要件。一般製造業では、まず下の2つが先
動作確認と記録導入したシステムが意図どおり動くことを確認し、記録に残す難しく考えず「テストして、結果を残す」。医薬ではこれを厳密な手順(バリデーション)として行う

なぜ「手入力のExcel」は一発で疑われるのか ― 3つの欠陥

監査官がExcelや汎用フォーム運用を見たときに探すのは、次の3点です。いずれもALCOA+の原則に直結します。

  • ① 帰属性(Attributable)の欠如 ― 共有ログイン・代筆:現場のPCに全員が共通IDでログインしている、1人が他人の分もまとめて入力している。「この記録を作ったのは誰か」を1対1で特定できない記録は、それだけで信頼性を失います
  • ② 正確性・原本性(Accurate/Original)の欠如 ― 後からの書き換えと転記:手入力のExcelは権限があれば数値を自由に直せ、上書き保存すれば前の値も理由も残りません。「都合の悪いNGをOEに直していない」ことを示す材料が存在しない状態です
  • ③ 同時性(Contemporaneous)の欠如 ― 後追いのまとめ入力:終業間際に1日分を「10:00」「13:00」と入力した記録は、時刻の信頼性がありません。端末の時計を変更できる環境なら、なおさらです(「ペーパーレス化したのに監査が厳しくなる?」)

現場で最も多い病理 ―「共有PCに入りっぱなし」と「夕方の一括入力」

実際の工場を見ると、この2つはほぼセットで見つかります。まず共有PCの常時ログイン。ラインの端末に共通アカウントで入りっぱなしにしてあり、誰でもその画面から入力できる状態です。効率のためにそうなっているのですが、Part 11やALCOA+の観点では「いつ誰が入力・修正したのか、後から誰にも特定できない無防備な状態」を意味します。監査官に「この記録を作ったのは誰ですか」と聞かれて答えられない時点で、そのデータの信頼性は失われます。

もう1つが夕方の一括入力。日中は紙にメモしておき、終業前にまとめて打ち込む運用です。監査官が操作ログのタイムラインを見れば、作業は8時間に分散しているはずなのに記録が16:45〜17:00に集中している——一目で「その場で採られた記録ではない」と分かります。厄介なのは、この2つが重なると「誰が入力したか分からない、しかも実際の作業時刻でもない記録」になり、データとしての価値がほぼゼロになることです。

逆に言えば、作業者ごとのIDで、作業のその瞬間にスキャンするという運用に変えるだけで、この2つの病理は同時に解消します。「誰が・いつ・どのロットを扱ったか」が言い逃れのできない形で残り、帰属性と同時性という最も突かれやすい2点が構造的に満たされます。

核心は「改ざん防止」ではなく「改ざん検知」

ここで誤解されやすいのが、Part 11やデータインテグリティが求めているのは「絶対に変更できないこと」ではないという点です。現実の業務では、記録の修正はどうしても発生します。求められているのは、修正したなら、その事実・元の値・理由・実施者が必ず残り、後から隠せないこと——つまり改ざん"防止"より改ざん"検知"と透明性です。

記録が作られる(誰が・いつ・何を、が自動で残る)

後から修正が必要になった

望ましい構造

元の値・修正後の値・理由・実施者が履歴として残る(検証できる)

疑われる構造

上書きされ、前の値も理由も残らない(何が起きたか誰にも分からない)

修正を禁じるのではなく、修正が必ず見えるようにする

自社を点検するチェックリスト

自社の現場記録がどの程度耐えられるか、次の項目で点検してみてください。1つでも「いいえ」があれば、そこが監査で最初に突かれる場所です。

点検項目関係する原則よくあるNG状態
端末のログインIDが個人ごとに分かれているか帰属性現場PCが共有アカウント。誰が入力したか不明
現場の数値・時刻を作業者が手入力していないか正確性・同時性型番やロットを画面で手打ち。時刻も自己申告
記録は作業のその瞬間に残っているか同時性紙にメモ→夕方にまとめて入力
ファイルやDBを後から直接編集できない構造か原本性・完全性Excelを開いて上書き保存できる
変更履歴(誰が・いつ・何を・なぜ)が自動で残るか完全性変更の痕跡がまったく残らない
管理者権限で記録を消せない仕組みかデータインテグリティ情シス・DBAが裏で修正できる状態
特定ロットの記録を1分以内に取り出せるか可用性バインダーやファイルサーバーを探し回る

「Part 11対応システム」を買えば解決、ではない

よくある誤解が、「Part 11対応と書かれた製品を導入すれば適合する」というものです。実際には、規制が求めるのはシステムと運用の組み合わせです。どれほど高機能なシステムでも、全員が共有IDでログインしていれば帰属性は成立しませんし、現場が紙にメモして後で入力していれば同時性は失われます。逆に言えば、個人IDでスキャンし、その瞬間にサーバー側で記録されるという運用を作れれば、要求の中核部分はかなりの程度満たせます。

ここで、医薬・医療機器以外の製造業の方に強調しておきたいことがあります。データインテグリティを高めるために、大手製薬企業が導入するような数千万円規模のGxP専用パッケージから始める必要はありません。監査で最も疑われるのは、結局のところ「現場の受入・投入・消費の記録」という、いちばん泥臭い部分です。まずそこだけを、個人IDのスキャンで自動記録する形に変える——痛い工程から順に固めていく進め方コンポーザブルDX)の方が、投資も期間も現実的で、しかも監査で効く場所を先に押さえられます。

よくある誤解

  • 「Part 11は製薬だけの話」:規則自体はFDA管轄ですが、"電子記録が信頼できる条件"という思想は自動車・食品・化学の監査にも波及しています
  • 「記録を修正したら不適合」:修正自体は問題ありません。履歴と理由が残らないことが問題です
  • 「電子署名=押印の電子化」:本体は署名者の一意な特定と、記録との切り離せない結びつきです。ただし一般製造業でまず効くのは、署名の電子化より「誰がその作業をしたかが自動で残ること」です
  • 「対応システムを買えば適合」:システムだけでは成立しません。共有ID・後追い入力といった運用が残れば同じことです

まとめ

  • Part 11は電子記録・電子署名を紙と同等に扱うための条件を定めた規則
  • 柱は監査証跡・権限管理・記録の保護(一般製造業ではまず前2つ)
  • Excel運用の急所は、共有ID/後からの書き換え/後追いのまとめ入力の3つ
  • とくに「共有PCの常時ログイン」と「夕方の一括入力」が重なると、記録の価値はほぼゼロになる
  • 求められるのは改ざん防止そのものより、変更が隠せない透明性(改ざん検知)
  • システム購入では解決しない。個人IDでその瞬間に記録される運用が中核。GxP専用パッケージから始める必要はない

この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること

ここまではPart 11とデータインテグリティの考え方そのものを解説してきました。正直にお伝えすると、QUALIKEEP は「Part 11適合を保証する」システムではありません。電子署名の機能や、バリデーション文書一式、専用のWORMストレージは備えていません(医薬・医療機器のGxP領域では、それらを含む専用システムの検討が必要です)。QUALIKEEP が担えるのは、チェックリストのうち現場の操作記録に関わる部分です。作業者ごとのアカウントでQRをスキャンすれば、その瞬間に「誰が・いつ・どのロットを」がサーバー同期時刻で自動記録され(帰属性・同時性)、記録は改ざん検知付きのPDFとして出力でき、ロットや日付から短時間で取り出せます(可用性)。共有IDと後追い入力という、監査で最も突かれる2点を減らすところから始めたい場合の選択肢になります。

共有IDと後追い入力をやめる。その第一歩を、現場のスキャンから。

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ご注意

本記事は一般的な考え方と公開情報を整理したものです。21 CFR Part 11・GMP Annex 11・PIC/Sガイダンスの正確な要求事項と適用範囲は、FDA等の公式文書および専門家の助言をご確認ください。医薬品・医療機器のGxP領域では、システムのバリデーションを含む個別の検討が必要です。

参考・出典

  1. FDA「Part 11, Electronic Records; Electronic Signatures」
  2. PIC/S(医薬品査察協同スキーム)

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