この記事の要点SUMMARY
- 端末の時計はずれるし、設定で変えられる。記録の時刻をそこに任せると監査で突かれる
- サーバー側の時刻を正とするのが基本。ただしオフライン作業では成り立たない
- オフラインでは「端末の時刻」と「サーバーに届いた時刻」の両方を残すしかない
- タイムゾーンは保存と表示を分ける。日付だけで保存すると日をまたいで壊れる
「10時15分に開封」と記録に残っているとします。その10時15分は、誰の時計で測った時刻でしょうか。「いつ」を記録が自分で主張できるかは、ALCOA+ でいう同時性そのものです。「あとから変わっていないか」はまた別の技術で担保します(「改ざん検知は何を証明して、何を証明しないのか」)。
現場のスマホやタブレットでスキャンしたなら、端末の時計から来ている可能性があります。端末の時計は、電池切れやネットワーク未接続でずれますし、設定画面から手で変えることもできます。監査で記録の時刻を問われたとき、ここが弱点になります。
端末の時計がずれる場面
| 原因 | 起きること | 気づけるか |
|---|---|---|
| ネットワーク未接続が長い | 内部の時計が徐々にずれる | 気づきにくい |
| 電池が完全に切れた | 起動時に既定値に戻ることがある | 大きくずれるので気づく |
| タイムゾーンの設定違い | 9時間ずれる | 日付が変わるので気づきやすい |
| 手で変更された | 任意の時刻にできる | 記録側からは判別できない |
最後の行が本質です。端末の時刻を正としている限り、意図的な変更と正常な記録は区別できません。「そんなことはしない」という前提は、監査では前提として通りません。
基本はサーバー側の時刻
記録の時刻は、受け取った側(サーバー)で付けるのが基本です。現場の端末が何を主張しても、記録に残るのはサーバーの時計です。
この形なら、端末の設定を変えても記録の時刻は動きません。時刻の一貫性も保たれます。複数の現場・複数の端末から記録が集まっても、同じ1つの時計で並べられます。
ただし「送信した時刻」であって「作業した時刻」ではない
サーバーの時刻は、正確には「サーバーに届いた時刻」です。通信が数秒遅れれば、そのぶんずれます。数秒の誤差が問題になる工程はほとんどありませんが、「作業した瞬間」ではないことは理解しておく必要があります。
オフラインで作業したとき
現場は電波が届かないことがあります。冷凍庫の中、金属に囲まれた作業場、地下。ここでサーバー時刻という原則は成り立ちません。
選べる形は3つですが、実質は3つ目しかありません。
| 方式 | 長所 | 問題 |
|---|---|---|
| オフラインでは記録させない | 時刻が常に正確 | 現場が回らない。紙に戻る |
| 端末の時刻をそのまま採用 | 作業した瞬間に近い | 改ざんの余地が残る |
| 両方を残す | 作業時刻と到着時刻の両方が見える | 列が増える。説明が要る |
実務では3つ目です。端末が主張する時刻と、サーバーに届いた時刻の両方を持ちます。監査では「この記録はオフラインで作られ、◯分後に同期された」と説明できます。ずれが大きい記録は目立つので、後から確認もできます。
オフラインで作った記録に、時刻が2つ付く
冷凍庫でスキャン
電波が届かない
端末が時刻を付ける
10:15(端末の時計。参考値)
外に出て同期
サーバーに届く
サーバーが時刻を付ける
10:23(こちらが正)
差を見てどうするか
差が小さい
通常どおり扱う
差が大きい
後から確認する対象にする
大事なのは、どちらが正かを決めておくことです。両方あるのに、どちらを見て判断しているかが決まっていないと、都合のいいほうを選んでいるように見えます。
タイムゾーンで壊れるところ
時刻の問題は、ずれだけではありません。保存と表示を分けていないと、日をまたいだ瞬間に壊れます。
- 保存は絶対時刻で:世界共通の1点として持てば、後からどの地域の時刻でも表示できます
- 表示は現地の時刻で:日本の現場なら日本時間で出す。ここは表示の都合であって、保存の都合ではありません
- 日付だけで保存しない:「8月24日」とだけ持つと、23時に起きたことと翌0時に起きたことの前後が分からなくなります。集計の切れ目もずれます
「1日の件数」を数える場面では、どの時刻で日付を切るかを決めておく必要があります。夜勤がある現場では、0時で切ると1つの勤務が2日に割れます。切り方は運用に合わせて決め、決めたことを記録に書いておきます。
よくある誤解
- 「端末の時計は自動で合っている」:ネットワークに繋がっていればそうですが、繋がらない現場ほど記録が要ります
- 「数秒のずれは誤差」:ほとんどの工程ではそうです。問題は誤差の大きさではなく、意図的に変えられることです
- 「オフライン対応はいらない」:電波が届かない場所で紙に戻ると、そこだけ記録の質が落ちます
- 「日付だけあれば十分」:夜勤と日またぎで壊れます。時刻まで持って、切り方は別に決めます
まとめ
- 端末の時計はずれるし、手で変えられる
- 基本はサーバー側の時刻。ただし「届いた時刻」であることは理解しておく
- オフラインでは端末の時刻と到着時刻の両方を残し、どちらが正かを決めておく
- 保存は絶対時刻、表示は現地時刻。日付だけで保存しない
- 1日の切れ目は運用に合わせて決め、決めたことを書いておく
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
QUALIKEEP は時刻サーバーを提供する製品ではありません。自社に NTP サーバーや時刻認証局を構築するものではなく、担えるのは記録の時刻を端末任せにしないこと、そしてオフラインで作った記録に、端末の時刻と到着した時刻の両方を残すことです。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| 記録の時刻 | サーバー側の時刻で付ける(端末の設定に依存しない) | —— |
| オフラインの扱い | 端末が主張する時刻と、届いた時刻の両方を残す | —— |
| 一覧・出力 | 同じ時計で並べて出せる | —— |
| 時刻サーバーの提供 | (該当なし) | NTP サーバー・時刻認証局を構築・提供するものではありません |
| 端末の時計の是正 | (該当なし) | 端末側の設定管理は各社の端末管理(MDM 等)の領域 |
| オフライン時の絶対的な正確さ | 保証しません | 端末の時刻は参考値です。差が大きい記録は、後から確認する運用が要ります |
オフラインの行が現実です。電波の届かない場所で「正確な時刻」を作る方法はありません。できるのは、どこで作られた時刻かが後から分かる形にしておくことだけです。
記録の時刻が、いま誰の時計で決まっているか確かめてみてください。
改ざん検知つきの記録が、実際どう残るかを見る →ご注意
本記事は一般的な考え方を整理したものです。記録の時刻に関する具体的な要求は、適用される規格・規制によって異なります。該当する規格の原文および認証機関・規制当局の情報をご確認ください。