この記事の要点SUMMARY
- 品質コストは予防コスト・評価コスト・内部失敗コスト・外部失敗コストの4つに分けて捉える
- 1:10:100は「発見が遅れるほど費用が跳ね上がる」ことを示す経験則。厳密な実証値ではない
- 実務で価値があるのは総額の把握より、4つの比率がどう動いたかを追うこと
「品質にかける費用」と聞くと、検査員の人件費や試験の費用を思い浮かべるかもしれません。しかし品質コスト(COQ:Cost of Quality)の考え方では、それは一部にすぎません。不良を出したことによる損失まで含めて、はじめて全体が見えます。この記事では、その分け方と、有名な「1:10:100」の扱い方を整理します。
4つに分ける
品質コストは、大きく適合コスト(良いものを作るためにかける費用)と不適合コスト(悪いものを作ってしまった損失)に分かれ、それぞれ2つに細分されます。
| 分類 | 中身 | 例 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 予防コスト | 不良を起こさないためにかける費用 | 教育、設備の改善、工程設計、手順書の整備、供給者の選定 | 先行投資 |
| 評価コスト | 良否を確かめるための費用 | 検査、試験、測定器の校正、監査 | 確認のための費用 |
| 内部失敗コスト | 社内で見つけた不良の損失 | 手直し、廃棄、再検査、ライン停止、原因調査 | 社内で収まる損失 |
| 外部失敗コスト | 社外に出てしまった不良の損失 | クレーム対応、返品、回収、賠償、信用の毀損 | もっとも高い |
**予防コスト**
意図してかける。金額をコントロールできる
**評価コスト**
同じく意図してかける
**内部失敗コスト**
**起きてしまう**。社内で止められた分
**外部失敗コスト**
**起きてしまう**。しかも外に出た。金額が読めない
「検査を増やす」は予防ではありません
よくある誤解ですが、検査の強化は評価コストの増加であって予防ではありません。検査を増やしても不良の発生自体は減らないため、内部失敗コストは減りません(見つかる分だけ増えることもあります)。予防コストとは、そもそも不良が起きない工程にするための費用です。
1:10:100の法則
品質の分野で広く語られるのが 1:10:100 という比率です。不良を見つける段階が遅れるほど、処理にかかる費用が桁で増えるという考え方を表しています。
| 見つけた段階 | 相対的な費用 | 実際に何をすることになるか |
|---|---|---|
| 工程内で見つける | 1 | その場で直す、または捨てる。材料と手間だけ |
| 出荷前に見つける | 10 | 完成品を分解・選別・再検査。梱包のやり直し。出荷を止める調整 |
| 顧客のところで見つかる | 100 | 回収、代替品の手配、原因報告、対応の人件費、信用の低下 |
なぜ跳ね上がるのかは、費用の中身を見れば分かります。段階が進むほど、付加された価値と、関わった人の数が増えるからです。
工程内
材料と、そこまでの加工の手間だけ
完成後
**全工程の加工費、部品、包装、検査の手間すべてが無駄になる**
出荷後
**そこに物流費、相手の手間、対応の人件費、信用が加算される**
この数字をそのまま使ってよいか
率直に言えば、1:10:100という数字を鵜呑みにするのは避けたほうがよいです。理由を整理します。
| 論点 | 実際のところ |
|---|---|
| 出典 | 明確な大規模実証というより、経験則として広まった比率 |
| 実際の倍率 | 業種・製品によって大きく違う。1:5:50の場合も、1:100:10000の場合もありうる |
| 単位製品あたりか総額か | 定義が曖昧なまま使われることが多い |
| 使いどころ | 桁の感覚を共有するための道具。精緻な計算には向かない |
| それでも有用な点 | 「早く見つけるほど安い」という方向性は確か |
経験則としての価値はある
数字の厳密さを問うと弱いのですが、この法則が伝えたいことは正しく、しかも直感に反しません。「工程内で1個捨てるのと、出荷後に1個回収するのは、費用がまるで違う」——これを桁の感覚として共有できることに価値があります。社内で予防への投資を説明するとき、この比率は有効な言葉になります。
比率の推移を見る
品質コストを実務で使うとき、総額よりも4つの比率に意味があります。改善が進んでいる組織では、比率が特定の方向に動きます。
| 状態 | 予防 | 評価 | 内部失敗 | 外部失敗 | 読み取れること |
|---|---|---|---|---|---|
| 改善前 | 低い | 高い | 高い | 高い | 検査で支えている。不良は減っていない |
| 改善の途中 | 上がる | 高い | まだ高い | 下がる | 予防に投資し始めた段階 |
| 改善後 | 適度 | 下げられる | 低い | 低い | 工程で作り込めている。検査を減らせる |
注目すべきは「改善後」で評価コストが下がるという点です。工程で品質が作り込めていれば、検査の頻度を落とせます。逆に「検査を減らせない」状態は、工程が信頼できていないことの表れです。
予防コストを増やす
工程改善、教育、仕組み化。**すぐには効果が見えない**
**内部失敗コストが下がる**
手直し・廃棄が減る。ここで初めて効果が見える
**外部失敗コストが下がる**
クレームが減る。**もっとも遅れて現れるが、金額は最大**
評価コストを下げられる
工程が安定したので、検査を減らせる
この時間差が、予防への投資が続きにくい理由です。投資した期間は総額が増えて見えます。効果が出るまでに、経営の理解が必要になります。
自社で見るときの作り方
品質コストの集計は、精緻にやろうとすると挫折します。まず粗く始めるのが実務的です。
| 項目 | 取りやすいデータ | 注意 |
|---|---|---|
| 内部失敗 | 廃棄した数量と金額、手直しの工数 | まずここから。もっとも集めやすい |
| 外部失敗 | クレーム対応の件数と工数、返品額 | 対応にかかった時間を記録していないことが多い |
| 評価 | 検査員の人件費、外部試験費、校正費 | 比較的取りやすい |
| 予防 | 教育費、改善活動の工数、設備投資の一部 | 線引きが難しい。厳密さより継続を優先 |
完璧な集計より、同じ物差しで続けること
品質コストの集計では、「どこまでを含めるか」で必ず議論になります。ここに時間をかけるより、まず自社の定義を決めて、同じ物差しで毎月測り続けるほうが役に立ちます。比較したいのは他社ではなく、去年の自社です。
「隠れた失敗コスト」
集計に乗りにくいけれど確実に発生しているものがあります。氷山の水面下にあたる部分です。
| 見えている費用 | **見えていない費用** |
|---|---|
| 廃棄した材料費 | その調査に費やした時間 |
| 手直しの工数 | 手直しのために止まった他の作業 |
| 返品の送料 | 謝罪に行った営業の時間と交通費 |
| 再検査の費用 | 「念のため」で恒久化した過剰な検査 |
| クレーム対応費 | 失った受注、値下げ要求、取引条件の悪化 |
| —— | 現場の士気の低下、離職 |
右列の4行目は特に厄介です。一度トラブルが起きると「念のため」の検査が追加され、それが恒久化します。これは評価コストとして永久に積み上がり続けますが、誰も「元の問題は解決したから戻そう」と言い出しません。
よくある誤解
- 「品質コスト=検査費用」:予防・評価・内部失敗・外部失敗の4つです。失敗の損失も含みます
- 「1:10:100は実証された数字」:経験則です。桁の感覚を共有する道具として使います
- 「検査を強化すれば品質コストが下がる」:評価コストが増えるだけで、不良の発生は減りません
- 「品質コストを下げる=品質にお金をかけない」:予防に投資して失敗を減らす、が正しい方向です
- 「総額を正確に出さないと意味がない」:比率の推移を同じ物差しで追うほうが実務的です
まとめ
- 品質コストは予防・評価・内部失敗・外部失敗の4つに分ける
- 検査の強化は評価コストの増加であって、予防ではない
- 1:10:100は経験則。厳密な実証値ではないが、「早く見つけるほど安い」という方向性は確か
- 改善が進むと予防が上がり、失敗コストが下がり、最後に評価コストを下げられる
- 見えない失敗コスト(調査時間、恒久化した過剰検査、失った受注)が実際には大きい
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
正直にお伝えすると、QUALIKEEP は原価計算や会計のシステムではありません。品質コストの集計、金額の按分、費用の分類——いずれも対象外です。QUALIKEEP が関われるのは、内部失敗コストの一部を数字にするという限られた部分です。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| 廃棄の記録 | 期限切れや不使用で廃棄した材料のロットと数量、理由の記録 | —— |
| 期限切れの防止 | スキャン時の警告 | —— |
| 金額の計算 | (該当なし) | 原価の計算、費用の集計・按分は会計システムや表計算の領域 |
| 品質コストの分類 | (該当なし) | 4分類への振り分けは自社の定義に基づく作業です |
| 手直し・再検査の工数 | (該当なし) | 工数の把握は工数管理の仕組みの領域 |
| コストの削減 | 保証しません | 品質コストが下がることを保証するものではありません |
関われるのは1行目です。「今月いくら捨てたか」「なぜ捨てたか」は、内部失敗コストの入口にあたる数字です。ここが手書き台帳や記憶に頼っている状態では、品質コストの議論を始める材料がありません(「期限切れ廃棄ロスの分析」)。
ご注意
本記事は一般的な解説です。1:10:100は経験則として広く用いられている比率であり、特定の実証研究に基づく確定値ではありません。自社の実態は、自社のデータで確認してください。
参考・出典
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