この記事の要点SUMMARY
- UDIは医療機器を一意に識別するしくみ。固定情報のUDI-DIと、ロット・シリアル・期限などの可変情報であるUDI-PIで構成される
- 日本では薬機法の改正により、医療機器等へのバーコード表示が義務化されている。使えるのはGS1-128とGS1 DataMatrix
- 製造側で問われるのは表示そのものより、可変情報(ロット・製造日・使用期限)を確実に記録し、遡って提示できるかどうか
医療機器の箱に印刷されている四角い点の集まり——あれは単なる商品コードではありません。UDI(Unique Device Identification:機器固有識別)と呼ばれる、医療機器を一意に識別するための国際的なしくみに基づいています。この記事では、UDIの構造、日本の薬機法での義務化の内容、そして製造・供給する側に実際に必要となる記録を整理します。
UDIとは何のためにあるのか
目的は明快で、問題が起きたときに、どの機器が、どこにあるかを特定するためです。
医療機器に不具合が見つかったとき、対象を絞り込めなければ回収は成立しません。「型番Aの全部」なのか「特定のロットだけ」なのかで、医療現場への影響はまったく変わります。UDIは、この絞り込みを可能にするための共通の言語です。
| UDIがあると可能になること | 具体的な場面 |
|---|---|
| 回収範囲の特定 | 不具合が特定ロットに限られるなら、そのロットだけを回収できる |
| 院内での使用記録 | どの患者にどの機器・材料を使ったかを記録できる |
| 期限管理 | 使用期限切れの機器が棚に残っていないか確認できる |
| 在庫・発注 | 院内物流の効率化。SPD(物品管理)と連動する |
| 添付文書へのアクセス | コードから最新の使用上の注意を参照できる |
UDIの構造 ― DIとPI
UDIは、性質の異なる2つの部分で構成されます。ここを押さえると、なぜ現場の記録が問われるのかが分かります。
| UDI-DI(機器識別子) | UDI-PI(製造識別子) | |
|---|---|---|
| 意味 | その製品が何かを表す | その個体・その製造単位が何かを表す |
| 中身 | 製品モデルごとに割り当てられる番号(GS1体系ではGTIN) | ロット番号、シリアル番号、製造日、有効期限 など |
| 変わるか | 製品仕様が同じなら固定 | 製造のたびに変わる |
| 印字の準備 | 版下に焼き込める | 製造時に確定させて印字する必要がある |
| 管理の難所 | 発番と登録の管理 | 現場での記録と紐づけ |
実務でつまずくのは、ほぼ例外なくPI側です。DIは一度決めれば変わりませんが、PIは製造のたびに発生し、しかも後から遡って調べられる形で残っていなければ意味がありません。
UDI-DI(製品の識別)
「この製品は◯◯という型番のカテーテルである」
UDI-PI(個体・ロットの識別)
「そのうち、2026年3月製造のロットL-1234、使用期限2029年2月のもの」
不具合発生
PIがあれば「L-1234だけ」に絞れる。なければ型番全体の回収になる
日本での義務化 ― 薬機法とバーコード表示
日本では、薬機法(医薬品医療機器等法)の改正により、医療機器等へのバーコード表示が義務化されています。それまでは業界の自主的な取り組みとして進んでいたものが、法的な要求になりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 医療機器、体外診断用医薬品、医薬品など |
| 使えるシンボル | GS1-128 と GS1 DataMatrix(医療機器等の場合) |
| 表示する場所 | 販売包装、個装、(対象により)直接包装など、段階ごとに定められる |
| 表示する内容 | DI(商品コード)に加え、対象に応じて有効期限・ロット番号・シリアル番号など |
| 狙い | トレーサビリティの向上、取り違え防止、回収の迅速化 |
「どこに何を表示するか」は製品区分で異なります
医療機器はクラス分類や製品の性質によって、表示すべき包装の段階と情報の範囲が変わります。特定保守管理医療機器か、高度管理医療機器か、あるいは体外診断用医薬品かで扱いが異なるため、自社製品の要求はGS1 Japan の「UDI対応バーコード表示ガイド」および所管の通知で必ず確認してください。本記事では全体像の把握にとどめます。
GS1-128 と GS1 DataMatrix の使い分け
| GS1-128 | GS1 DataMatrix | |
|---|---|---|
| 形 | 1次元(バー) | 2次元(点の集合) |
| 必要な面積 | 横に長い | 小さい面積で済む |
| 向いている場面 | 外装箱など面積に余裕がある包装 | 小さな個装、直接包装、器具本体への刻印 |
| 読み取り | 専用スキャナ | 2次元対応スキャナ |
| 損傷への強さ | 線が欠けると読めない | 誤り訂正機能がある |
小型のディスポーザブル製品や、器具そのものへ直接マーキングする場合は、面積の制約からDataMatrixが選ばれることが多くなります(コード体系そのものは「GS1・GTIN・データマトリックスとは」)。
添付文書の電子化との関係
もう一つ押さえておきたいのが、添付文書の電子化です。従来は製品に紙の添付文書を同梱していましたが、電子化へと移行しました。
製造販売業者
最新の添付文書などの製品情報をPMDAのシステムに登録する
製品にGS1バーコードを表示
容器・包装にコードを印字
医療機関がコードを読む
登録された最新の情報を参照できる
この仕組みの利点は、紙が古くなる問題が消えることです。紙の添付文書は、改訂されても手元の在庫に入っているのは古い版のままでした。コード経由なら、参照した時点の最新版が見られます。
海外の制度との違い
医療機器を輸出している場合は、仕向地ごとの制度も関わってきます。考え方は共通ですが、登録先のデータベースや細部の要求が異なります。
| 地域 | 制度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 日本 | 薬機法によるバーコード表示 | GS1-128/GS1 DataMatrix。PMDAへの情報登録と連動 |
| 米国 | FDAのUDI規則 | GUDIDというデータベースへの製品情報の登録が求められる |
| EU | MDR/IVDRのUDI要求 | EUDAMEDというデータベースが関わる。段階的に運用が進んでいる |
共通するのは、「製品にコードを付ける」だけでなく「データベースに製品情報を登録する」がセットになっている点です。表示だけ対応しても完結しません。各制度の詳細・適用時期は変わりうるため、輸出先の当局および業界団体の最新情報でご確認ください。
製造・供給する側の実務
UDI対応というと表示(印字)の話に見えますが、実際に工数がかかるのは印字するデータをつくる側です。
| 必要なこと | 難所 | つまずいた場合に起きること |
|---|---|---|
| DIの発番・登録 | 製品改訂時にDIを変えるべきかの判断 | 同じDIで別仕様の製品が流通し、追跡が壊れる |
| ロット番号の採番 | 採番ルールが工場・製品ごとにばらばら | 同じ番号が別製品で使われ、照会時に特定できない |
| 使用期限の確定 | 製造日からの計算ルールが人の頭の中にある | 印字と実際の管理がずれる。誤った期限が印字される |
| 原材料ロットとの紐づけ | 受入時の記録が紙にしかない | 「この製品ロットに使った材料はどれか」を遡れない |
| 印字と検証 | 小さな包装への印字品質 | 読めないコードが出荷され、医療機関で読めない |
| 記録の保存 | 保存年限が長い | 数年後の照会に応えられない |
とくに原材料ロットとの紐づけは見落とされがちです。製品にUDIを付けても、その製品をつくった材料のロットが追えなければ、原材料側に起因する問題が起きたときに範囲を絞れません。UDIは出口の識別であって、入口の記録は別途必要だということです(「受入検査とCoA」「トレーサビリティとは」)。
追跡が切れると、回収範囲が一気に広がる
この「入口の記録」がないと何が起きるか。具体的に見てみます。ある部材に問題が見つかったとしましょう。
部材メーカーから連絡
「ロットXの樹脂に規格外の可能性がある」
入口の記録がある場合
ロットXを使った製品ロットだけを特定 → 対象を絞って回収
入口の記録が紙だけ/ない場合
どの製品に入ったか特定できない → **その期間の製品すべて、あるいは型番全体が対象**
せっかく製品側にUDI-PIを印字して個体・ロットを識別できるようにしても、材料側が「いつ頃入った、たぶんあのロット」しか分からなければ、識別の粒度は材料側に引きずられます。追跡は鎖なので、いちばん弱いところで切れます。
本体材料より、副資材で切れやすい
医療機器の製造では、製品を構成する主材料以外にも、多くの資材が使われます。そして追跡が切れるのは、たいてい後者です。
| 資材 | 管理が要る期限 | 切れやすい理由 |
|---|---|---|
| 樹脂ペレット・金属素材 | 保管期限、(吸湿性があれば)乾燥条件 | 入庫管理はされているが、投入時のロット記録が手書き |
| 接着剤・プライマー | 保管期限、開封後の使用期限、可使時間 | 開封日が容器に手書き。擦れて読めなくなる(「可使時間とは」) |
| コーティング剤 | 保管期限、開封後期限 | 少量ずつ使うため、開封から使い切りまでが長い |
| 滅菌バッグ・包装材 | 保管期限、開封後の取り扱い | 「包装材だから」と管理対象から外れがち |
| 洗浄液・薬品 | 有効期限、更新頻度 | 共用のため、誰がいつ開けたか曖昧になる |
| 試験・検査用の試薬 | 有効期限、開封後期限 | 検査結果の妥当性に直結するのに管理が緩い |
「接着剤の開封後期限が切れていた」という指摘は、それ単体では小さく見えます。しかし医療機器では、接合強度が下がることが患者の安全に直結しうるため、該当期間に製造した製品すべての妥当性を問われることになります。
ISO 13485・QMS省令との関係
ここまでUDIの話をしてきましたが、医療機器の品質マネジメントには ISO 13485(および国内のQMS省令)という土台があります。UDIはその上に乗る識別のしくみであって、UDIだけを整えても品質マネジメントが成立するわけではありません。
| ISO 9001 | ISO 13485(医療機器) | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 汎用の品質マネジメント | 医療機器に特化。規制要求への適合が前面に出る |
| 継続的改善 | 中心的な考え方 | 求められるが、規制適合と有効性の維持により重心がある |
| 文書・記録 | 必要な範囲で | 要求される文書・記録が具体的に多い |
| トレーサビリティ | 必要に応じて | 求められる度合いが強い。特に埋植機器などで厳しい |
| 滅菌・清浄度 | 規定なし | 該当する場合は具体的な要求がある |
| リスクマネジメント | リスク及び機会として扱う | ISO 14971と結びついた形で全体に組み込まれる |
実務でよく問われるのが、製造した個々のロット・個体について、実際に何が行われたかを示す記録です。どの材料を使い、どの工程を経て、誰が確認したか——これが揃って初めて、そのロットの妥当性を説明できます。UDI-PIは、その記録を呼び出すための鍵にすぎません。鍵があっても、開けた先に中身がなければ意味がないということです。
医療機関側で起きていること
供給側だけでなく、使う側の病院でもUDIの活用が進んでいます。バーコードを読むことで、次のような運用が可能になります。
- 使用記録との紐づけ:どの患者にどのロットの材料を使ったかを記録する
- 期限切れの防止:棚にある在庫の期限をスキャンで確認する
- 取り違えの防止:似た形状・似た名称の製品を、コードで区別する
- 回収時の対応:該当ロットが院内のどこにあるかを探す
ここで重要なのは、病院側が読めるかどうかは、供給側の印字品質にかかっているという点です。かすれて読めないコードは、現場では「手入力」に戻ります。そして手入力は打ち間違いを生みます。印字品質は供給側の責任範囲です。
よくある誤解
- 「UDI=バーコードのこと」:UDIは識別のしくみで、バーコードはそれを運ぶ手段です。データベースへの登録も含めた全体がUDI対応です
- 「DIさえ付けておけばよい」:回収範囲を絞るにはPI(ロット・期限・シリアル)が要ります。DIだけでは型番単位でしか絞れません
- 「印字設備を入れれば対応できる」:印字する可変情報を確定・受け渡しできる仕組みがなければ、載せるデータがありません
- 「日本の対応をすれば海外もそのまま通る」:コード体系は共通でも、登録先データベースや要求範囲が異なります
- 「表示だけの話で、社内の記録は関係ない」:照会に応じるには、製造記録と原材料ロットが遡れる必要があります
まとめ
- UDIは医療機器を一意に識別するしくみで、固定のUDI-DIと可変のUDI-PIで構成される
- 日本では薬機法によりバーコード表示が義務化され、GS1-128とGS1 DataMatrixが使われる
- 添付文書の電子化と連動し、コードが最新の製品情報への入口になっている
- 米国・EUにも同様の制度があり、いずれも「表示」と「データベース登録」がセット
- 追跡は鎖なので弱いところで切れる。材料側が「たぶんあのロット」なら、製品側の識別も同じ粒度まで落ちる
- 切れやすいのは主材料より副資材。接着剤・コーティング剤・滅菌バッグの開封後期限がとくに弱い
- UDIはISO 13485・QMS省令という土台の上に乗る識別のしくみ。PIは記録を呼び出す鍵で、中身の記録は別に要る
- 実務の難所は印字設備より、ロット・期限・原材料ロットを確定させ、遡れる形で残すこと
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
正直にお伝えすると、QUALIKEEP は医療機器の薬事対応を担うシステムではありません。UDIコードの発番、PMDA・GUDID・EUDAMEDといったデータベースへの登録、包装への印字、添付文書の管理——これらはいずれも対象外です。QUALIKEEP が関われるのは、UDI-PIの元になる「材料側の記録」という一点です。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| 原材料・部材のロット記録 | 受入・開封・使用をQRスキャンで記録し、日付やロットから検索できる | —— |
| 期限管理 | 使用期限・開封後期限の判定と警告(設定によりブロック) | —— |
| UDIの発番・登録 | (該当なし) | DIの割り当て、PMDA/GUDID/EUDAMEDへの登録は薬事・専用システムの領域 |
| 製品への印字・刻印 | (該当なし) | ラベラー・印字設備、器具本体へのレーザーマーキング(DPM)、印字品質の検証機(ベリファイア)はいずれも対象外。QUALIKEEP は印字されたコードを読み取って記録する側です |
| 薬事対応 | (該当なし) | 承認・認証、QMS省令/ISO 13485への適合判断、添付文書の管理は対象外 |
| 製造記録(DHR/DMR) | 材料の受入・使用実績という一部分 | ロットごとの製造履歴記録(DHR)や機器主記録(DMR)の管理そのものは対象外。工程条件・検査結果・製造指図・文書承認フローは上位のMES/QMSの領域 |
つまり、「製品にUDIは付けたが、その製品をつくった材料のロットが紙台帳にしかない」——という入口側の抜けを埋める道具です。医療機器そのものだけでなく、部材・原材料を供給する立場の企業にとっても、同じ課題が発生します。
製品のUDIは整っていても、材料側のロットは追えますか。
はんだ・電子部品の現場での使い方を見る →ご注意
本記事は公開情報をもとにした一般的な解説です。医療機器の区分ごとの表示要求、対象範囲、適用時期、海外制度の運用は変更されることがあります。実際の対応にあたっては、厚生労働省・PMDAの通知、GS1 Japan のガイド、および各国当局の最新情報を必ずご確認ください。薬事に関する判断は専門家にご相談ください。
参考・出典
※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。