この記事の要点SUMMARY
- 識別は現物を見れば何か分かる状態にすること。トレーサビリティも期限管理も識別の上に成り立つ
- 識別が消えるのは、小分け・移し替え・包装の開封・仕掛品になった瞬間
- 状態の識別(未検査・合格・不合格・特別採用)も、モノの識別と同じくらい重要
品質管理の話題としては、もっとも地味なテーマかもしれません。しかし識別——現物を見れば何か分かる状態——が崩れると、その上に載っているすべての管理が同時に崩れます。トレーサビリティ、期限管理、不適合品の管理、在庫管理。すべて「これが何か分かる」ことを前提にしています。この記事では、その土台を整理します。
識別が崩れると何が崩れるか
**識別(これが何か分かる)**
**すべての土台**
期限管理
「何が」分からなければ、期限も分からない
トレーサビリティ
「どのロットか」が分からなければ追跡できない
不適合品の管理
「これは不合格品」と示せなければ隔離できない
在庫管理
何がどれだけあるか分からない
ISO 9001でも箇条8.5.2は「識別及びトレーサビリティ」という並びになっています。識別が先に来るのは、順序として当然だからです。
2種類の識別
実務では、識別が2つの意味を持ちます。混同されやすいので分けて考えます。
| **モノの識別** | **状態の識別** | |
|---|---|---|
| 答える問い | これは何か | これはどういう状態か |
| 内容 | 品名、品番、ロット、数量、期限 | 未検査、合格、不合格、保留、特別採用、修理待ち |
| 変わるか | 基本的に変わらない | 工程を進むごとに変わる |
| 崩れると | 取り違えが起きる | 未検査品や不合格品が使われる |
| よくある表し方 | 現品票、ラベル、刻印 | 札、置き場、テープの色 |
状態の識別のほうが崩れやすいです。モノの識別は一度貼れば変わりませんが、状態は工程を進むごとに変わるため、更新が必要になります。そして更新は忘れられます。
「何もない」が合格を意味する運用は危うい
多くの現場では、不合格品に赤札を貼り、未検査品に黄札を貼り、何も貼っていないものが合格品という運用になっています。この方式の弱点は、「札を貼り忘れた不合格品」が合格品と区別できないことです。何もない状態が合格を意味すると、貼り忘れがそのまま流出につながります。
現品票に何を書くか
現品票(現品表、識別票)に書く項目は、後から何を問われるかで決まります。
| 項目 | 必要な理由 | 抜けると |
|---|---|---|
| 品名・品番 | 何かを特定する | 取り違え |
| ロット番号 | 追跡の単位 | トレーサビリティが成立しない |
| 数量 | 在庫と実物の一致 | 棚卸しが合わない |
| 受入日/製造日 | 古さの判断、先入れ先出し | どちらが古いか分からない |
| 期限(使用期限・開封後期限) | 使ってよいかの判断 | 期限切れの使用 |
| 開封日 | 開封後期限の起点 | 残り時間が計算できない |
| 状態 | 使ってよいか | 未検査品の使用 |
| 担当者 | 責任の所在 | 確認の経緯が追えない |
| 保管条件 | 扱い方の指示 | 不適切な保管 |
太字にした項目が、実務で抜けやすく、かつ抜けると影響が大きいものです。とくに開封日は、現品票の様式に欄がないことすらあります(「開封後期限と有効期限の違い」)。
識別が消える4つの瞬間
識別は、貼った時点では成立しています。問題は、特定の作業をした瞬間に失われることです。
**① 小分け・移し替え**
**元の容器から出した瞬間、ラベルが付いてこない**
**② 包装の開封**
**外袋に印字された情報が、中身と切り離される**
**③ 仕掛品になる**
**加工されて形が変わり、元が何だったか分からなくなる**
**④ 混合・調合**
**複数のロットが混ざり、1つの識別で表せなくなる**
| 場面 | 起きること | 打ち手の方向 |
|---|---|---|
| 小分け | 中身の分からない容器が生まれる | 小分け先にも表示する。表示なしで小分けさせない |
| 開封 | 外装の情報が失われる | 中身側に情報を移す。開封日を追記する |
| 仕掛品 | 識別が付かず「たぶんあれ」になる | 仕掛品用の識別を用意する。台車・容器単位で管理 |
| 混合 | 複数ロットが1つになる | 構成したロットを記録する(1対多の記録が要る) |
④の混合は、識別の考え方として特殊です。1つのものに複数の由来があるため、現品票に1つのロット番号を書くだけでは表せません。「このバッチは、材料Aのロット1と材料Bのロット2から作られた」という記録が別に必要になります。
仕掛品の識別が、いちばん手薄になりやすい
受入時と出荷時は識別がしっかりしているのに、その間の仕掛品だけ識別がないという現場は珍しくありません。「今日作っている分だから分かる」という前提で運用され、日をまたいだり、途中で担当が変わったりした瞬間に崩れます。台車や容器に識別を付ける運用が現実的です。
「無い」ことを示す
識別の考え方で見落とされやすいのが、空になった場所の扱いです。
| 状況 | 問題 | 対応の例 |
|---|---|---|
| 置き場が空 | 「使い切った」のか「まだ来ていない」のか分からない | 空札(空であることを示す札)を置く |
| 現品票だけ残っている | 中身がないのに票がある。あると勘違いする | 票の回収を作業に含める |
| 中身があるのに票がない | 何か分からないものが存在する | 発見時のルールを決める(隔離、調査) |
| 一部だけ使った | 残量が分からない | 残量を記載する運用 |
3行目が最も危険です。「何か分からないもの」が現場にある状態は、いずれ何かに使われます。「たぶんこれだろう」という推測で使われた瞬間、トレーサビリティは断絶します。識別のない現物を見つけたときのルールを決めておく価値があります。
表示の実務的な条件
識別票は「貼ってあれば良い」わけではありません。読める状態が続くかが問われます。
| 条件 | よくある失敗 |
|---|---|
| 読めること | 油性ペンの字が擦れて消える、薬品で溶ける |
| 剥がれないこと | 結露で剥がれる、冷凍で粘着が効かない |
| 汚れに耐えること | 粉じん、油、水で見えなくなる |
| 位置が一定 | 貼る場所が決まっていないと、探すことになる |
| 書く内容が一定 | 人によって書き方が違うと、読み間違いが起きる |
| 異物にならないこと | 札やテープ自体が製品に混入する(「異物混入の分類と対策」) |
1行目は現場で非常に多い問題です。冷凍庫に入れた容器の手書きラベルは、結露と霜で読めなくなります。塗料缶に書いた開封日は、溶剤で消えます。「書いたけれど読めない」は、書いていないのとほぼ同じです。
よくある誤解
- 「識別=トレーサビリティ」:識別は「何か分かる」、トレーサビリティは「追跡できる」。識別が先にあります
- 「ラベルが貼ってあれば識別できている」:読める状態が続いているかが条件です
- 「合格品には何も貼らなくてよい」:札の貼り忘れが、そのまま流出につながります
- 「小分けは一時的だから表示は不要」:中身の分からない容器が生まれる最大の原因です
- 「仕掛品は見れば分かる」:担当が変わり、日をまたぐと分からなくなります
まとめ
- 識別はすべての管理の土台。崩れると期限管理もトレーサビリティも不適合品の管理も成立しない
- モノの識別(何か)と状態の識別(どういう状態か)は別。状態のほうが崩れやすい
- 識別が消えるのは、小分け・開封・仕掛品化・混合の4つの瞬間
- 「無い」ことを示す運用も要る。識別のない現物を見つけたときのルールも決めておく
- 読める状態が続くかが条件。擦れる・溶ける・剥がれる・霜で見えないは、書いていないのと同じ
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
QUALIKEEP が扱っているのは、まさにこの領域です。現物にQRコードを紐づけ、受入・開封・使用・廃棄をスキャンで記録します。手書きの現品票では崩れやすい部分——開封日、期限、状態——を、スキャンした記録の側に持たせる形になります。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| モノの識別 | QRコードと記録の紐づけ。品番・ロット・期限・開封日 | —— |
| 開封日の記録 | スキャンした時刻が起点になるので、書き忘れが起きにくい | —— |
| 状態の管理 | 受入後の状態を記録し、使用時のスキャンで判定できる | —— |
| ラベルの印刷 | (該当なし) | ラベルプリンタとの連動、耐水・耐油・耐薬品ラベルの選定はいずれも資材と設備の領域 |
| 誤選定の防止 | 保証しません | 取り違えをなくすことを保証するものではありません。コードが読める状態にあり、スキャンする運用が定着している場面に限って効きます |
| 仕掛品の識別 | 限定的 | 工程内の仕掛品管理、台車単位の追跡はMES等の領域 |
| 混合・調合の構成記録 | 限定的 | 複数ロットから1つを作る配合の記録は生産管理の領域 |
| 在庫の数量管理 | ロット単位の残量(受入数量 − 確定消費 − 使用中の見込み) | ロケーション管理、棚卸しはWMSの領域 |
正直に書くと、仕掛品と調合の2行は苦手な領域です。工程内の仕掛品管理や、複数ロットから1つを作る配合の記録は、QUALIKEEP だけでは続きません。得意なのは購入した現物(原材料・副資材)が、受入から使い終わるまでの区間です。その区間で「読めなくなった手書きラベル」を置き換えたい場合に向いています。
ご注意
本記事は一般的な解説です。識別・表示の要求事項は、適用される規格や法令(食品表示、医療機器のUDI等)によって具体的に定められている場合があります。実際の運用は自社に適用される要求に従ってください。
参考・出典
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