この記事の要点SUMMARY
- CSDDDは企業に人権・環境のデューデリジェンスを義務づけるEUの指令
- 2026年のオムニバス法で閾値が大幅に引き上げられ、対象企業が絞り込まれた
- 直接の対象は大企業に限られるが、その取引先として情報提供を求められる形で中小企業にも影響する
CSDDD(Corporate Sustainability Due Diligence Directive:企業持続可能性デューデリジェンス指令)は、企業に対して人権・環境への影響を調べ、対処することを義務づけるEUの指令です。2024年の成立当時は「対象が広い」として大きな話題になりましたが、2026年のオムニバス法によって内容が大きく変わりました。この記事では、いまの姿を整理します。
そもそも何を求める指令か
中心にあるのはデューデリジェンス(相当な注意)という考え方です。「悪いことをしていない」だけでなく、自社の事業や取引先において悪影響が起きていないかを調べ、見つけたら対処することを求めます。
① 方針への組み込み
経営方針とリスク管理の仕組みにデューデリジェンスを位置づける
② 影響の特定
人権・環境への実際の/潜在的な悪影響を洗い出す
③ 防止・軽減
見つけた悪影響を止める、または減らす措置をとる
④ 苦情処理の仕組み
影響を受ける人が声を上げられる窓口を設ける
⑤ 監視と情報開示
措置の効果を確認し、取り組みを公表する
②の「影響」には、労働条件、安全衛生、差別、児童労働、強制労働といった人権の問題と、汚染、生物多様性、廃棄物といった環境の問題が含まれます。
オムニバス法による変更 ― 対象が大きく絞られた
2026年に採択されたオムニバス法(簡素化パッケージ)により、CSDDDは大幅に見直されました。企業にとっていちばん大きいのは、対象になる企業の閾値の引き上げです。
| 当初の枠組み(成立時) | **オムニバス法による改正後** | |
|---|---|---|
| 対象の考え方 | 段階的に対象を広げていく設計 | 大企業に絞り込み |
| 閾値(グループ1) | より低い水準から | 従業員5,000人超かつ全世界売上15億ユーロ超 |
| 閾値(グループ2) | 同上 | 従業員3,000人以上かつ売上9億ユーロ以上 |
| EU域外企業 | EU域内売上で判定 | EU域内売上が上記水準を超える場合 |
| 適用開始 | 規模により段階適用 | 2028年7月26日(グループ1も1年延期され、同時期に) |
| 義務の中身 | より広範 | 簡素化された部分がある |
「対象になるかも」と身構えていた企業の多くが外れた
成立当初は「サプライチェーンを通じて日本の中堅企業にも義務が及ぶ」と受け止められ、対応を検討し始めた企業が多くありました。改正後の閾値は従業員3,000人以上・売上9億ユーロ以上と高く、直接の対象になる日本企業はかなり限られます。まず自社が閾値を超えるかを確認するところから始めるのが実務的です。
日本企業が直接の対象になる条件
EU域内での売上はどれくらいか
EU域外企業は、EU域内の純売上高で判定される
閾値を超える → 直接の対象になりうる
**グループ2で売上9億ユーロ以上**が目安
閾値を超えない → 直接の対象ではない
**多くの日本企業はこちら**
ただし取引先が対象なら…
**情報提供や取り組みの説明を求められる立場になる**
最後の分岐が実務の本丸です。自社が対象でなくても、対象企業のサプライヤーであれば要求は降りてきます。取引先が自社のデューデリジェンスを実施するために、供給者である自社に情報を求めるからです。
降りてくる要求の形
| 求められること | 具体例 | 準備しておくと楽なこと |
|---|---|---|
| 取り組みの説明 | 人権方針はあるか、教育はしているか | 方針の文書化、実施記録 |
| 質問票への回答 | 労働時間、安全衛生、児童労働・強制労働の有無 | 回答の元になる自社データの整理 |
| 上流の把握 | 自社が仕入れている先はどこか | サプライヤーリストの整備 |
| 現地監査の受入れ | 第三者による監査や訪問 | 記録の準備、案内できる体制 |
| 契約条項への同意 | 行動規範の遵守、是正への協力 | 契約内容の確認 |
実務でしんどいのは2行目です。同じような質問票が、取引先ごとに違う様式で届きます。含有化学物質調査で起きていることと同じ構図です(「chemSHERPAとは」)。元になるデータを整理しておかないと、そのつど社内を探し回ることになります。
他のEU規制との関係
| 規制 | 性格 | 対象の広さ |
|---|---|---|
| CSDDD | プロセスの義務(仕組みを作り実施する) | 大企業に限定 |
| 強制労働産品規則 | 結果の禁止(該当産品を出さない) | 規模を問わない(「EU強制労働産品規則とは」) |
| EUDR | 産品ごとのデューデリジェンス | 対象7品目を扱う事業者(「EUDRとは」) |
| CSRD | 情報開示 | 規模により段階適用 |
整理すると、CSDDDは「大企業に仕組みを作らせる」法律、強制労働産品規則は「誰であれ該当産品を出させない」法律です。CSDDDの対象から外れても、強制労働産品規則は規模を問わず関わってきます。ここを混同しないことが重要です。
よくある誤解
- 「サプライチェーン全体に義務が及ぶ」:義務を負うのは閾値を超える大企業です。供給者は契約を通じて協力を求められる立場です
- 「2024年に成立したので、その内容で準備すればよい」:2026年のオムニバス法で閾値と時期が変わりました。最新の内容を確認する必要があります
- 「対象外なら何もしなくてよい」:取引先が対象なら、質問票や監査という形で要求が来ます
- 「CSDDDの対象外=人権関連は無関係」:強制労働産品規則は規模を問いません。別の法律として関わります
- 「EUに輸出していないから関係ない」:EUへ出す企業の供給者であれば、間接的に関わります
まとめ
- CSDDDは企業に人権・環境のデューデリジェンスを義務づけるEUの指令
- 2026年のオムニバス法で閾値が大幅に引き上げられ、対象が大企業に絞り込まれた
- 適用は2028年7月26日からとされ、グループ1も同時期へ延期された
- 直接の対象になる日本企業は限られるが、対象企業の供給者として要求が降りてくる
- 規模を問わない強制労働産品規則とは別の法律。混同しないことが重要
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
正直にお伝えすると、QUALIKEEP は人権デューデリジェンスのシステムではありません。方針の策定、影響評価、苦情処理の窓口、サプライヤー監査、情報開示——いずれも対象外です。CSDDDへの対応そのものは、サステナビリティ部門・調達部門と専門のサービスの領域になります。
QUALIKEEP が関われるのは、質問票や調査に答えるときの元データの一部、つまり「どの供給元から、いつ、どのロットを受け入れ、どの製品に使ったか」という記録だけです。人権に関する評価そのものは扱いません。
| 領域 | 扱えるか | 補足 |
|---|---|---|
| 人権・環境の影響評価 | できません | 方針の策定、影響の特定、リスクのスコアリングは対象外です |
| サプライヤー監査の管理 | できません | 監査結果の管理、是正の追跡を行う機能はありません |
| ESG・CSRDの開示 | できません | サステナビリティ報告書やESGレポートの作成は対象外です |
| 取引先の監査への合格 | 保証しません | 欧州企業の調達審査や監査の結果を保証するものではありません |
| 受入・使用の記録 | 扱えます | 「どの供給元のどのロットを、いつ、どこに使ったか」という事実の記録に限られます |
ご注意
本記事は公開情報をもとにした一般的な解説です。CSDDDは改正が行われた領域であり、各国の国内法化の状況によって細部が変わります。自社が対象になるかの判断を含め、実際の対応にあたっては欧州委員会の最新情報および専門家にご確認ください。
参考・出典
※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。