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NO.074現場DX / 労働安全衛生

chemSHERPAとは?― 含有化学物質調査の仕組みと、答える側の実務

取引先から次々に届く「含有化学物質調査」。その共通の道具として使われているchemSHERPAについて、成立の背景、chemSHERPA-AIとCIの違い、対象物質リストがRoHSやREACH SVHCをどう束ねているか、そして回答する側が実際に何に苦しんでいるのかを整理します。

公開QUALIKEEP 編集部

この記事の要点SUMMARY

  • chemSHERPAは製品に含まれる化学物質の情報を、サプライチェーンで共通の形式で伝えるための仕組み
  • 成形品向けのAIと化学品向けのCIがあり、対象物質リストはRoHS・REACH SVHC・IEC 62474などを束ねたもの
  • 回答する側の負担は「調べること」より「どのロットの情報かを特定すること」に集中する

部品や材料を供給している会社なら、一度は経験があるはずです。「chemSHERPAで回答をお願いします」という依頼が、複数の取引先から、しかも定期的に届く。担当者が片手間で対応しきれず、実質的な専任者が生まれている——そんな現場も珍しくありません。この記事では、この仕組みが何のためにあり、なぜ負担が重くなるのかを整理します。

なぜ含有化学物質を聞かれるのか

出発点は、製品に含まれる特定の化学物質を規制する法令です。代表的なものが、EUのRoHS指令(電気電子機器の特定有害物質の使用制限)とREACH規則(化学物質の登録・評価・認可・制限)です。

ここで問題になるのが、完成品メーカーは自分の製品に何が入っているか分からないという構造です。部品を買い、その部品はさらに下位の部品でできています。規制物質が含まれていないことを示すには、鎖を遡って情報を集めるしかありません。

完成品メーカー

EU等へ出荷するために、規制物質の不含有を示す必要がある

一次サプライヤーへ調査依頼

「この部品の含有情報をください」

二次・三次サプライヤーへ

同じ依頼が下へ流れていく

素材メーカー

ここまで遡って、ようやく成分の情報が確定する

情報は完成品側から下流へ、回答は上流から遡って戻る

各社がバラバラの様式で聞けば、同じ内容を何十通りもの書式で書かされることになります。これを解消するために作られた共通の仕組みが chemSHERPA です。

chemSHERPAの位置づけ

項目内容
始まり経済産業省の支援のもと2015年に運用開始。以降、JAMP(アーティクルマネジメント推進協議会)が運営
目的サプライチェーン全体で、製品含有化学物質の情報を共通の形式で伝える
データ形式電気・電子機器の含有化学物質情報伝達の国際規格 IEC 62474 のXMLスキーマを採用
対象物質リストRoHS、REACH SVHC、ELV、IEC 62474、GADSL などの和集合として整備
改訂ECHAによるSVHC追加やIEC 62474のデータベース更新に合わせて定期的に改訂
費用ツール自体は無償で提供される

法令そのものではありません

chemSHERPAは法規制ではなく、情報を伝えるための共通の仕組みです。ただし取引条件として求められるため、実務上は「対応しないと取引が続かない」という性格を持ちます。制度としての強制力ではなく、商流としての強制力がある、という理解が実態に近いでしょう。

AI と CI ― 2つの様式

chemSHERPAには扱う対象によって2つの様式があります。混同されやすいので整理します。

chemSHERPA-AIchemSHERPA-CI
対象成形品(Article)化学品(Chemical Product)
ネジ、基板、樹脂成形部品、完成品接着剤、塗料、洗浄剤、インク
伝える内容構成部材ごとの含有物質と含有率、遵法判定成分組成、含有物質の情報
どちらを使うか形が決まっていて、そのまま組み込まれるもの液体・粉体など、使うことで形が変わるもの

判断に迷うのは、たとえば「接着剤を塗って硬化させた部品」のようなケースです。部品として出荷するならAI、接着剤そのものを出荷するならCI、というのが基本の考え方になります。

出荷するものは、形が決まっているか?

ネジ、基板、成形部品、組み立てた完成品

はい → chemSHERPA-AI

成形品として、構成部材ごとの含有情報を伝える

いいえ(液体・粉体・ペースト)→ chemSHERPA-CI

化学品として、成分の情報を伝える

出荷する形で判断する。中身ではなく「何として売るか」

SVHCが追加されるたびに何が起きるか

chemSHERPAの対象物質リストは固定ではありません。とくにREACH規則のSVHC(高懸念物質)は、欧州化学品庁(ECHA)によって定期的に追加されます。追加のたびに、サプライチェーン全体で同じ動きが発生します。

ECHAがSVHCを追加

新しい物質が候補リストに載る

完成品メーカーが影響を確認

「自社製品にこの物質は入っているか」

**サプライヤーへ緊急の調査依頼**

「貴社から納入された部品について、新規追加物質の含有有無を回答してください」

回答する側

**現在の仕様だけでなく、過去に納めた分についても聞かれることがある**

追加されるたびに、過去に納めた分まで遡って聞かれる

ここで効いてくるのが、過去の記録です。「現在の材料には含まれていません」だけでは足りず、「いつからその材料を使っているか」「それ以前は何を使っていたか」まで答えられて初めて、過去の納入分についても回答できます。

回答に必要な情報整っている場合整っていない場合
現在の材料の含有情報サプライヤーからの回答をそのまま使える同左(ここは差が出にくい)
いつから使っているか受入記録から特定できる担当者の記憶や発注履歴から推測することになる
それ以前は何を使っていたか過去の受入記録で分かる分からない、または調査に数日かかる
切替時期の混在在庫の使用順から追える混在期間の特定ができない
回答までの時間短時間数日〜数週間

回答が遅いこと自体が評価される

含有化学物質調査では、回答内容の正しさに加えて「どれくらいで返ってくるか」も見られています。同じ内容でも、即座に返せる会社と数週間かかる会社では、供給者としての評価が変わります。管理体制の成熟度を示す指標として見られている、という側面があります。

回答する側の本当の負担

chemSHERPAの説明はここまでですが、実務の重さはここからです。回答作業でどこに時間が消えるのかを見てみましょう。

作業見た目の負担実際の負担
ツールの操作慣れれば軽い軽い
自社製品の構成の把握部材表が整っていないと重い
下位サプライヤーへの依頼と催促軽そうに見える最も重い。返ってこない、様式が違う、担当者が不在
どのロット・どの版の情報かの特定見落とされがち重い。材料を変えていた場合、いつから変わったかが分からない
対象物質リスト改訂への追随改訂のたびに再確認が必要
回答内容の妥当性確認受け取った情報が正しいかは、結局は相手を信じるしかない部分がある

注目してほしいのは4行目です。「どのロットの話か」が特定できないと、回答の根拠が揺らぎます

材料を切り替えたとき、境目が分からない

具体的な場面で考えてみます。ある部品の材料を、供給元Aから供給元Bへ切り替えたとします。両社の材料で含有物質の情報が違っていた場合、次の問いに答えられるでしょうか。

  • いつからBの材料を使い始めたか
  • その日以前に出荷した製品には、どちらの材料が入っているか
  • 切り替えの時期に、Aの在庫が残っていて混在した期間はなかったか
  • 顧客から「◯月に納入した分の情報」を求められたとき、どちらを回答すべきか

これらは含有化学物質の知識ではなく、受入と使用の記録の問題です。受入台帳が紙で、投入記録が日報にしかない状態だと、境目を再現するのに大変な手間がかかります。

調査回答は「過去」を聞かれる

含有化学物質調査でしばしば見落とされるのが、質問が現在ではなく過去に向くことです。「今の仕様」ではなく「あのとき納めた製品」について聞かれます。現時点の部材表だけでは答えられず、いつからいつまで何を使っていたかの記録が要ります。

他の情報伝達の仕組みとの関係

仕組み扱うものchemSHERPAとの関係
IMDS主に自動車業界の材料データ自動車のサプライチェーンではこちらが求められることが多い
SCIPEUの成形品中のSVHCに関するデータベース届出が必要な場合がある。chemSHERPAの情報が元になりうる
DPP製品情報全般の開示含有物質はDPPが扱う情報の一部(「デジタル製品パスポートとは」)
Catena-X / ウラノスサプライチェーンのデータ連携基盤情報を運ぶ仕組みそのもの(「Catena-Xとは」)

業界によって求められる様式が違うため、同じ内容を複数の形式で用意している企業も少なくありません。ここでも、元になるデータが整理されているかどうかで負担が変わります。

よくある誤解

  • 「chemSHERPAは法規制」:法令ではなく情報伝達の仕組みです。ただし取引条件として実質的に必須になります
  • 「一度回答すれば終わり」:対象物質リストは改訂されます。材料や工程を変えたときも更新が必要です
  • 「不含有証明書を出せば代わりになる」:求められている様式で回答できなければ、受け取る側の作業が増えます
  • 「AIとCIはどちらでもよい」:成形品か化学品かで使い分けます
  • 「調査は化学の知識の問題」:実務の大半は、部材構成と使用ロットの記録という管理の問題です

まとめ

  • chemSHERPAは、製品に含まれる化学物質の情報をサプライチェーンで共通の形式で伝える仕組み
  • JAMPが運営し、IEC 62474のXMLスキーマを採用。対象物質はRoHS・REACH SVHC等を束ねたもの
  • 成形品向けのAIと化学品向けのCIがある
  • 負担が集中するのは下位サプライヤーへの依頼と、「どのロットの情報か」の特定
  • 調査は過去について聞かれる。現在の部材表だけでは答えられない
  • SVHCが追加されるたびに、過去の納入分まで遡って聞かれる。回答の速さ自体も評価される

この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること

正直にお伝えすると、QUALIKEEP は chemSHERPA のデータを作成・変換するツールではなく、含有化学物質の遵法判定を行うものでもありません。QUALIKEEP が関われるのは、回答の根拠になる「いつ、どの材料ロットを使ったか」の記録という部分だけです。

領域QUALIKEEP が担える範囲対象外(他の仕組みで扱う領域)
材料の使用履歴受入・使用したロットと日付の記録。材料切替の境目を後から辿れる——
受入時の書類受入検査やCoAと紐づけた記録(「受入検査とCoA」)——
chemSHERPAデータの作成(該当なし)AI/CIファイルの作成・読み込み・変換・提出は対象外。JAMPが提供する公式ツールで行う作業です
含有物質の判定(該当なし)遵法判定、閾値の判断は行いません。CAS番号やSVHCリストとの照合機能もありません
法令データベースとの連携(該当なし)REACH SVHC・RoHS等の対象物質リストは保持していません。ECHAの更新やIEC 62474の改訂に自動で追随する仕組みもありません
様式のバージョン追随(該当なし)chemSHERPAのフォーマット改訂への対応・変換は対象外です
部材構成(BOM)の管理(該当なし)製品構成表の管理はPLM/基幹システムの領域
分析・試験(該当なし)成分分析、蛍光X線などの測定は分析機関・測定器の領域

つまり、「◯月に納めた製品にどちらの材料が入っていたか」を再現するための、足元の記録を用意する道具です。調査回答そのものは、専用ツールと担当者の作業になります。

ご注意

本記事は公開情報をもとにした一般的な解説です。chemSHERPAの運用ルール、対象物質リスト、関連する法規制は改訂されます。実際の対応にあたっては、JAMPの公式情報および取引先の要求事項を必ずご確認ください。遵法判断は専門家にご相談ください。

参考・出典

  1. chemSHERPA 公式サイト(JAMP)
  2. 経済産業省「製品含有化学物質の情報伝達スキーム」

※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。

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