← ARTICLE INDEX
NO.075法規制 / 労働安全衛生

職場の熱中症対策の義務化とは?― 対象となる作業、必要な体制、罰則

2025年6月1日に施行された労働安全衛生規則の改正により、職場の熱中症対策が罰則付きで義務化されました。対象となるWBGT・気温と作業時間の条件、「見つける・判断する・対処する」という3段階の考え方、報告体制と手順の整備、そして製造現場で実際に必要になる準備を整理します。

公開QUALIKEEP 編集部
法規制労働安全衛生可使時間湿度管理熱中症労働安全衛生規則職場環境安全管理

この記事の要点SUMMARY

  • 2025年6月1日施行の労働安全衛生規則改正により、職場の熱中症対策が罰則付きで義務化された
  • 対象はWBGT28度以上または気温31度以上で、連続1時間以上または1日4時間を超える作業
  • 求められるのは「早期発見のための報告体制」「悪化防止の手順」「関係者への周知」の3点

2025年6月1日、労働安全衛生規則の改正が施行され、職場の熱中症対策が罰則付きで義務化されました。それまでも通達に基づく指導は行われていましたが、規則として明確な義務になった点が大きな違いです。この記事では、何が求められるのか、自社の作業が対象になるのか、そして製造現場で実際に何を準備することになるのかを整理します。

対象となる作業

まず確認したいのは、すべての職場が一律に対象になるわけではないという点です。暑さの程度と作業時間で線が引かれています。

条件内容
暑さの程度WBGT(暑さ指数)28度以上、または気温31度以上
作業時間上記の環境下で、連続1時間以上、または1日4時間を超える作業
場所屋外・屋内を問いません

「屋内だから対象外」ではありません

見落とされやすいのが屋内作業です。空調のない工場、炉や乾燥機のそばの作業場、夏場の倉庫——いずれもWBGTが28度を超えることは珍しくありません。とくに熱源がある工程では、外気温が低くても局所的に条件を満たす場合があります。まずは実測してみることをおすすめします。

WBGTとは

WBGT(暑さ指数)は3つで決まる重み湿度(湿球温度)汗が蒸発できるか輻射熱(黒球温度)日射・炉からの熱気温(乾球温度)空気そのものの温度※ 重みは概念図。屋内・屋外で係数は異なる同じ気温30℃でも湿度40% / 熱源なし汗が蒸発でき、体温を下げられる湿度85% / 蒸気工程のそば汗が蒸発せず、基準を超えうるだから体感や気温では判断できない。実測が要る
図 湿度の重みが最も大きい。同じ気温30℃でも、湿度と熱源の有無で危険度が変わる

WBGT(湿球黒球温度)は、気温だけでなく湿度と輻射熱(日射や熱源からの熱)を組み合わせた指標です。「暑さ指数」とも呼ばれます。

気温が同じでも、湿度が高ければ汗が蒸発しにくく、体温が下がりません。また炉のそばでは輻射熱が加わります。気温だけでは危険度を測れないというのがWBGTの発想です。専用の測定器で計測します。

要素何を表すか効く場面
湿度(湿球温度)汗が蒸発できるかどうかもっとも重み付けが大きい。梅雨明けや、蒸気を使う工程で効く
輻射熱(黒球温度)日射や熱源から直接受ける熱屋外の直射日光、炉・乾燥機・溶接のそば
気温(乾球温度)空気そのものの温度基本の要素だが、単独では判断できない

実務で驚かれるのが、気温がさほど高くなくてもWBGTが基準を超えるケースです。たとえば湿度が非常に高い日、あるいは蒸気や熱水を使う工程のそば。「今日は30度もないから大丈夫」という感覚が当てにならないのは、このためです。

気温30度・湿度40%・屋内で熱源なし

汗が蒸発でき、体温を下げられる。WBGTは基準を下回ることが多い

気温30度・湿度85%・蒸気工程のそば

汗が蒸発せず、体温が下がらない。**WBGTは基準を超えうる**

→ だから実測する

気温や体感では判断できない。作業場所ごとに測る必要がある

同じ気温でも、条件によって危険度はまったく違う

何をすることが求められるのか

義務の中身は、大きく3つです。「見つける・判断する・対処する」という流れで整理すると分かりやすくなります。

① 報告体制の整備(見つける)

熱中症のおそれがある人を見つけたとき、誰に、どう報告するかを定める

② 手順の作成(判断する・対処する)

悪化を防ぐための対応手順をあらかじめ決めておく

③ 関係労働者への周知

①②を、実際に作業する人へ知らせる。決めただけでは足りない

早期に見つけ、その場で判断し、悪化させない

重要なのは、「本人が申し出る」ことに頼らない設計が求められている点です。熱中症は判断力が落ちるため、本人が異変に気づけないことがあります。だからこそ、周囲が見つけて報告する体制が必要になります。

手順に盛り込むべき内容

段階決めておくこと
発見誰が気づいても報告できるか。作業を中断してよいと明示されているか
報告先直属の上司が不在のときはどうするか。夜勤・休日はどうするか
初期対応涼しい場所への移動、体を冷やす方法、水分・塩分の補給
判断の基準どの状態なら救急要請か。迷ったときはどうするか
救急要請誰が呼ぶか。場所の伝え方、案内する人の割り当て
その後一人にしない。回復しても業務に戻すかの判断
記録発生の記録、再発防止の検討

「迷ったら救急」と書いておく

実務でよく問題になるのが、現場が判断に迷って通報が遅れることです。手順の中に「判断に迷う場合は救急要請する」と明記し、その判断で責任を問わないことを示しておくと、初動が早くなります。躊躇の原因が「呼んで大げさだったら困る」という心理にあることは多いのです。

罰則

今回の改正では罰則が設けられています。6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されうる、という位置づけです。

ただし、罰則があるから対応する、という順序で考えると本質を外します。熱中症は毎年、職場で死亡災害を出している事象です。実際に人が亡くなっているという点が、この義務化の背景にあります。

製造現場で実際に必要になる準備

準備具体的にすることつまずきやすい点
WBGTの把握作業場所ごとに測定する「たぶん大丈夫」で測っていない。場所によって大きく違う
対象作業の特定条件に該当する作業を洗い出す短時間の作業の積み上げが4時間を超えていることに気づかない
報告体制の明文化誰に報告するかを決め、掲示する口頭の了解で済ませている
手順の作成発見から救急要請までの流れを文書化一般論のコピーで、自社の場所・連絡先が入っていない
周知朝礼、掲示、教育で伝える管理職だけが知っている
設備・備品涼しい休憩場所、氷、経口補水液休憩場所が遠い、または暑い
記録測定値、教育の実施、発生時の対応残していない

とくに1行目です。WBGTを測っていなければ、自社が対象かどうかも判断できません。測定器は比較的手に入りやすいので、まず実測することが出発点になります。

品質側の温度管理とは別物

製造現場では、製品や材料のために温度を管理していることがあります。ただしこれは人の安全のための管理とは別です。混同しないよう注意してください。

品質のための温度管理熱中症対策のための管理
測るもの保管場所・材料の温度作業者がいる場所のWBGT
目的材料の劣化防止、製品品質人の健康と生命
指標温度、湿度WBGT(気温+湿度+輻射熱)
基準材料ごとの保管条件28度/31度と作業時間
測定器温湿度計、データロガーWBGT計

「倉庫に温度計はあります」と言っても、それが保管品のためのものであれば、熱中症対策の根拠にはなりません。測っている対象も指標も違うからです。

ただし、暑い現場では材料も傷んでいる

両者は別の管理ですが、同じ「暑い」という状況が、人と材料の両方に効いているのは事実です。熱中症が起きるような環境では、そこに置かれた材料も想定より速く劣化しています。

材料夏場に起きること結果
二液性の接着剤・樹脂温度が上がると可使時間が短くなる「いつもの時間」で作業すると硬化が始まっている
溶剤・塗料揮発が進み、粘度が変わる塗布量・膜厚が狂う
吸湿性のある樹脂・粉体高湿度で吸湿が進む成形不良、発泡(「湿度と吸湿による劣化」)
冷所保管品出し入れの間に温度が上がる保管条件からの逸脱
期限のある薬品高温で反応が速く進む表示された期限より早く使えなくなる

最初の行はとくに実務で問題になります。可使時間はカタログ値が常温基準で書かれていることが多く、夏場の現場では表示より短いのが普通です。「去年までこの手順で問題なかった」が通用しない年もあります(「可使時間とは」)。

暑さは「判断力」も落とす

見落とされやすい点ですが、暑熱環境では作業者の集中力と判断力が落ちます。つまり夏場は、材料が傷みやすい時期であると同時に、それに気づく力も落ちている時期です。暗算での期限計算や、目視での状態判断に頼っている工程ほど、夏に誤りが増えやすくなります。人の注意に頼らない確認の手段を持っておくと、この季節の負荷が下がります。

よくある誤解

  • 「屋外作業の話」:屋内も対象です。熱源のある工程や空調のない倉庫は該当しやすい環境です
  • 「気温が31度を超えなければ対象外」:WBGT28度以上でも対象です。湿度が高ければ気温が低くても該当します
  • 「本人が申し出れば対応する」:熱中症は判断力が落ちます。周囲が見つける体制が求められています
  • 「水分補給を呼びかけているから対応済み」:報告体制と手順の整備、周知が義務の中身です
  • 「保管用の温度計があるから測定している」:WBGTは別の指標で、別の測定器が必要です

まとめ

  • 2025年6月1日施行の労働安全衛生規則改正で、職場の熱中症対策が罰則付きで義務化された
  • 対象はWBGT28度以上または気温31度以上で、連続1時間以上または1日4時間超の作業
  • 求められるのは報告体制の整備、悪化防止の手順作成、関係労働者への周知
  • 罰則は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
  • まずWBGTを実測しないと、自社が対象かどうかも判断できない。品質のための温度管理とは別物
  • ただし同じ暑さが材料も傷める。可使時間の短縮や吸湿が進み、しかも人の判断力が落ちる時期でもある

この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること

先にはっきりさせておきます。QUALIKEEP は熱中症対策の道具ではありません。WBGTの測定機能はなく、作業者の健康状態を把握する機能もありません。この義務への対応は、WBGT計の設置、体制と手順の整備、教育という、まったく別の取り組みになります。

そのうえで、周辺として一点だけ触れておきます。QUALIKEEP には、材料の保管環境を把握するための温度記録の機能があり、対応するセンサーと連携して拠点の室温を取り込むこともできます。ただしこれは保管品の品質のための機能であって、作業環境の評価に使えるものではありません。

領域QUALIKEEP が担える範囲対象外
材料の保管温度保管場所の温度記録、材料の劣化に関わる条件の把握——
WBGT測定(該当なし)暑さ指数の測定機能はありません。WBGT計が別途必要です。WBGTセンサーと連動して警報を出す仕組みも持っていません
作業者の健康管理(該当なし)ウェアラブル端末による心拍・体温の監視、体調の把握、休憩管理はいずれも対象外
報告体制・手順(該当なし)体制の整備、手順の作成、教育は事業者の取り組み
災害発生時の対応(該当なし)救急対応、報告、記録は対象外

繰り返しになりますが、熱中症対策としては使えません。品質のための温度管理と、人の安全のための管理は別のものとして進めてください。

材料の保管温度のほうは、記録に残っていますか。

建設・施工の現場での使い方を見る →

ご注意

本記事は公開情報をもとにした一般的な解説です。適用条件・求められる措置の詳細・罰則の運用については、厚生労働省の最新情報および所轄の労働基準監督署にご確認ください。熱中症の応急処置に関する医学的な判断は、医療関係者の指示に従ってください。

参考・出典

  1. 厚生労働省「職場における熱中症予防対策」
  2. 厚生労働省「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守る熱中症対策」

※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。

FEEDBACK

この記事について、ご質問・ご意見をお寄せください

いただいた内容がそのままサイトに公開されることはありません運営が読んで、記事の加筆や次に書くテーマの参考にします。返信をご希望の場合はメールアドレスをご記入ください (内容により、お返事に時間をいただくことがあります)。

送信いただいた内容の取り扱いはプライバシーポリシーをご覧ください

FREE TEMPLATES ・ 登録不要

この記事の内容を、そのまま記録に落とすための様式

PDF は印刷して手書きする用、Excel は社内のルールに合わせて列を足す用です。 A4 に収まる印刷設定が入っています。改変・社内配布は自由です。

  • 材料管理記録票

    温度で期限を補正する「補正後制限時間」の欄。手書き運用でここが一番埋まりません。

    PDFExcel

  • 床上時間(フロアライフ)管理票

    「累積の暴露」と「累積の残り」。行が増えるほど前の行を足し忘れる欄です。

    PDFExcel

テンプレートの一覧と使い方を見る →

ABOUT QUALIKEEP

開封期限の管理を、現場のスマホで仕組みに。

QR スキャンで開封日時を自動記録。気温・湿度に応じて期限を自動補正し、期限前に通知します。記録は「いつ・誰が・どの材料を」までサーバ側に残ります。