この記事の要点SUMMARY
- 労働安全衛生法の改正で、一人親方・フリーランス等の個人事業者が保護の対象として位置づけられた
- 元方事業者が講じる措置の対象が「労働者」から「作業従事者」へ広がり、構内で働く個人事業者も含まれる
- 構内請負・委託が多い工場では、自社の従業員かどうかで扱いを分けてきた運用の見直しが必要になる
工場の構内では、自社の従業員だけが働いているわけではありません。設備の保守業者、構内請負の作業者、個人で請け負っている職人——さまざまな立場の人が同じ場所で作業しています。ところが労働安全衛生法は長らく、「労働者」を守る法律という組み立てでした。雇われていない個人事業者は、その枠の外にいたのです。この構造が改正で変わります。
なぜ見直されたのか
きっかけは、働き方の多様化です。フリーランス、一人親方、業務委託——雇用契約ではない形で働く人が増えました。しかし同じ場所で同じ危険にさらされていても、雇用されているかどうかで保護の枠組みが違うという状態が残っていました。
現場の実感としても、この線引きは不自然です。同じ設備を使い、同じ粉じんを吸い、同じ高所で作業している。それでも一方は法の保護対象で、もう一方は対象外——という状態を解消しよう、というのが今回の方向性です。
| これまで | 改正後 | |
|---|---|---|
| 法の中心 | 労働者の保護 | 労働者に加え、個人事業者等も視野に入る |
| 元方事業者の措置対象 | 労働者 | 作業従事者(個人事業者等を含む)へ拡大 |
| 注文者の配慮義務 | 主に建設工事の注文者 | 建設工事以外の注文者にも広く適用されることが明確化 |
| 災害の把握 | 労働者の労働災害が中心 | 個人事業者等の業務上災害も報告の対象に |
施行の時期
改正は2025年に成立し、内容ごとに段階的に施行されます。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年4月1日 | 危険箇所等における措置の対象拡大など |
| 2027年1月1日 | 業務上災害の報告制度に関する部分 |
| (同改正の別項目) | ストレスチェックの実施義務が、従業員50人未満の事業場にも広がる方向。こちらも段階的に適用 |
施行日は必ず最新情報で確認を
段階施行のため、項目ごとに適用時期が異なります。また政省令の整備によって細部が固まる部分もあります。自社に関わる範囲については、厚生労働省の公表資料および所轄の労働基準監督署でご確認ください。
工場の実務で何が変わるか
製造業の現場で影響が大きいのは、元方事業者の措置対象の拡大です。構内で複数の会社が混在して作業している場合、統括する側の責任範囲が広がります。
構内には、実はこれだけの立場の人がいる
まず自社の状況を整理してみてください。工場の構内で作業している人を洗い出すと、想像より多くの類型があるはずです。
| 立場 | 契約の形 | これまでの扱い | これからの考え方 |
|---|---|---|---|
| 自社の従業員 | 雇用 | 労働者として保護対象 | 変わらない |
| 派遣社員 | 労働者派遣 | 労働者として保護対象 | 変わらない |
| 構内請負会社の従業員 | 請負(相手方に雇用されている) | 元方事業者としての措置対象 | 変わらない |
| 構内請負会社の代表者本人 | 請負(雇われていない) | 扱いが曖昧だった | 作業従事者として措置の対象 |
| 一人親方・個人事業者 | 請負・委託 | 枠の外にいた | 同上 |
| 設備メーカーの保守員 | 保守契約 | 来訪者的な扱いになりがち | 構内で作業するなら同様に考える |
| フリーランスの技術者 | 業務委託 | 枠の外にいた | 同上 |
太字にした行が、今回の改正で位置づけが明確になる人たちです。同じ場所で同じ危険にさらされているのに、扱いだけが違っていた部分が埋まる、と考えると分かりやすくなります。
構内で作業する人たち
自社従業員、構内請負の作業者、保守業者、個人事業者
これまでの運用
安全教育・危険箇所の周知・連絡調整は、主に労働者を対象に組み立てられていた
これからの考え方
**そこで作業する人**という括りで、必要な措置を及ぼす
具体的には、次のような場面で運用の見直しが必要になります。
| 場面 | 見直しの観点 |
|---|---|
| 入構時の教育・周知 | 「協力会社の従業員」だけでなく、個人で請け負う人にも同じ内容が届いているか |
| 危険箇所の表示・立入管理 | 雇用形態にかかわらず、その場所で作業する人に伝わる形になっているか |
| 保護具の扱い | 持参が前提の場合、必要な仕様が伝わっているか。貸与するなら管理をどうするか |
| 化学物質・危険物の情報 | 取り扱う薬品の危険性が伝わっているか(「化学物質の自律的管理」) |
| 作業間の連絡調整 | 混在作業の調整に、個人事業者も含めているか |
| 災害発生時の対応 | 報告のルート、記録の残し方。誰の災害として扱うか |
契約の形と、安全の責任は別
この改正が突きつけているのは、契約形態を理由に安全上の措置を分けることはできないという考え方です。
実務では、「請負だから作業のやり方には口を出さない」という整理をしてきた場面があるかもしれません。指揮命令の関係を作らないための配慮という面もあり、それ自体は誤りではありません。しかし危険情報の提供や、危険箇所への立入管理は、指揮命令とは別の話です。ここを混同していると、必要な措置が抜け落ちます。
注文者側の配慮義務も広がる
建設工事の注文者には従来から、安全な作業を損なうような条件(無理な工期など)を付さないという配慮義務がありました。これが建設以外にも広く及ぶことが明確化されます。「短納期を押し付けた結果、無理な作業になった」という構図が問われうる、ということです。取引条件と安全は無関係ではありません(「取適法・労基法コンプライアンス」)。
記録の観点から
措置の対象が広がるということは、「必要な措置を講じたこと」を示す範囲も広がるということです。
- 入構者の記録:誰がいつ構内で作業したか。雇用形態を問わず把握できているか
- 教育・周知の記録:何を、誰に、いつ伝えたか
- 作業内容の記録:どの区域で、どんな作業が行われたか
- 支給・貸与した保護具や資材の記録:何を渡したか
- 危険物・化学物質の使用記録:誰がどの薬品を使ったか
最後の項目は、品質管理の記録と重なります。同じ薬品の使用記録が、安全側の証跡としても品質側の証跡としても機能する——という構造は、ISO 45001の統合運用でも見た通りです(「ISO 45001と品質の関係」)。
よくある誤解
- 「個人事業者を雇用しろという話」:雇用を求めるものではありません。安全衛生上の措置を及ぼす、という話です
- 「請負なので作業方法に関与できない」:危険情報の提供や立入管理は、指揮命令とは別の領域です
- 「建設業の話」:注文者の配慮義務が建設以外にも広がることが明確化されます。製造業も無関係ではありません
- 「うちは構内請負がないから関係ない」:設備の保守業者や個人での委託作業があれば該当しうる場面があります
- 「施行は先だから今は何もしなくてよい」:入構管理や教育の運用を見直すには時間がかかります。準備期間と考えるほうが現実的です
まとめ
- 労働安全衛生法の改正で、一人親方・フリーランス等の個人事業者が保護の対象として位置づけられた
- 元方事業者が講じる措置の対象が「労働者」から「作業従事者」へ広がる
- 注文者の配慮義務が、建設工事以外にも広く適用されることが明確化される
- 2026年4月から段階的に施行され、業務上災害の報告制度は2027年1月から
- 構内請負や外部委託が多い工場では、入構管理・教育・危険情報の伝達の運用見直しが必要になる
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
正直にお伝えすると、QUALIKEEP は労働安全衛生の管理システムではありません。入構管理、安全教育の記録、災害報告、健康管理——いずれも対象外です。QUALIKEEP が関われるのは、構内で扱われる薬品・資材の記録という限られた範囲だけです。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| 薬品・資材の使用記録 | 誰がいつどのロットを開封・使用したかの記録(雇用形態は問いません) | —— |
| 期限・取り違えの防止 | スキャン時の判定と警告 | —— |
| 入構管理 | (該当なし) | 入退場の管理、ゲート・顔認証との連動、入構名簿の管理は対象外 |
| 安全教育の記録 | (該当なし) | 教育の実施記録、資格台帳、力量管理は対象外 |
| 災害報告 | (該当なし) | 報告書の作成、労働基準監督署への届出、様式の出力は対象外 |
| 契約・請負管理 | (該当なし) | 契約形態の管理、発注条件の管理は対象外 |
| 法的な判断 | (該当なし) | 請負契約の適正性(いわゆる偽装請負に当たるか等)の判断は行いません。法的な判断は専門家の領域です |
要するに、この改正への対応そのものを担うものではありません。「構内で誰がどの薬品を使ったか」という一点について、雇用形態を問わず同じ形で記録が残る——という程度の関わりです。
構内で使われている薬品、誰が開けたか記録に残っていますか。
建設・施工の現場での使い方を見る →ご注意
本記事は公開情報をもとにした一般的な解説です。改正内容の詳細、施行日、政省令による具体的な要求は変更されることがあります。自社に適用される範囲については、厚生労働省の最新情報および所轄の労働基準監督署にご確認ください。個別の判断は社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
参考・出典
※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。