この記事の要点SUMMARY
- 対象は木材・ゴム・パーム油・大豆・牛・コーヒー・カカオの7品目と、その派生製品
- 木材由来のため、紙・段ボールといった包装材を使う企業にも影響が及ぶ点が見落とされやすい
- 適用は延期され、中規模・大規模企業は2026年12月30日、零細・小規模企業は2027年6月30日からとされている
「森林破壊の規制」と聞くと、木材業界や食品業界の話に思えます。ところが EUDR(EU Deforestation Regulation:EU森林破壊防止規則) の対象品目には木材が含まれており、その派生製品には紙や段ボールが含まれます。つまり、EUへ製品を輸出する際に梱包に段ボールを使っているなら関係しうる、という広がり方をします。この記事では、制度の中身と実務への影響を整理します。
何を求める規則なのか
目的は明快です。森林を破壊して作られた産品を、EU市場から締め出すこと。そのために、EU市場に産品を出す事業者に対して、次の2つを示すよう求めます。
| 求められること | 中身 |
|---|---|
| 森林破壊フリーであること | 基準となる日(2020年12月31日)以降に森林破壊が行われた土地で生産されていないこと |
| 生産国の法令に適合していること | 土地利用、労働、人権、税制など、生産国の関連法令を守って生産されたこと |
2つ目が見落とされやすい部分です。森林破壊だけでなく、生産国の法令遵守まで含まれます。労働に関する法令も対象に入るため、後述する強制労働の規制とも問題意識が重なります。
対象となる7品目
| 品目 | 派生製品の例 | 製造業への関わり |
|---|---|---|
| 木材 | 紙、段ボール、家具、木製品、印刷物 | 包装材として広範囲に関わる |
| ゴム | タイヤ、ゴム部品、ホース、シール材 | 工業用ゴム部品を使う場合に関わる |
| パーム油 | 食品、化粧品、洗剤、潤滑剤 | 食品・化学 |
| 大豆 | 食品、飼料、油脂 | 食品 |
| 牛 | 牛肉、皮革(レザー) | 食品、革製品 |
| コーヒー | コーヒー製品 | 食品 |
| カカオ | チョコレート、菓子 | 食品 |
木材とゴムが、製造業に効いてくる
食品業界向けの規制という印象を持たれがちですが、製造業に関わるのは主に木材(紙・段ボール)とゴム(工業用部品)です。とくに包装材は、ほぼすべての製造業が使います。「自社製品には該当品目を使っていない」と考える前に、梱包に使っている段ボールと緩衝材を確認してみてください。
適用時期 ― 度重なる延期を経ている
EUDRは適用が繰り返し延期されてきた規制です。当初は2024年末の適用予定でしたが、準備が整わないとして先送りされました。
当初の予定:2024年12月30日
準備不足を理由に延期
1回目の延期:2025年12月30日
さらに簡素化と延期が議論された
**中規模・大規模企業:2026年12月30日**
現在の見込み
**零細・小規模企業:2027年6月30日**
規模による猶予がある
延期が続いたことで、社内では「また延びるのでは」という空気が生まれやすくなっています。ただし要求される準備の中身(後述する原産地の特定)は、延期されても軽くなりません。時間が必要な作業であることは変わらないため、様子見のコストは小さくありません。
何をすることになるのか ― デューデリジェンス
事業者に求められるのは、デューデリジェンス(相当な注意)の実施です。手順は3段階に整理されています。
① 情報収集
品目、数量、供給者、**生産地の地理座標**、生産国、法令適合の根拠
② リスク評価
森林破壊のリスクがあるか。国のリスク区分、供給網の複雑さ、情報の信頼性などから判断
③ リスク低減
リスクが無視できる水準でなければ、追加の調査・証拠の入手・供給者の変更など
→ DDS(デューデリジェンス宣誓書)の提出
EUのシステムへ提出し、参照番号を得る
「地理座標」が実務上いちばん重い
①のなかで際立って難しいのが、生産地の地理座標です。「どの国から来たか」ではなく「どの区画で生産されたか」を緯度経度で示すことが求められます。
| これまでの管理 | EUDRが求める粒度 | 差 |
|---|---|---|
| 「東南アジア産」 | 具体的な生産区画の座標 | 桁違いに細かい |
| 「A社から購入」 | A社が誰から仕入れたか、その源流まで | 階層を遡る必要がある |
| 原産国証明 | 座標と、その土地の状態の証拠 | 書類の種類が変わる |
| 「混ざっているので分からない」 | 混合されていても追える形が必要 | 大量に集荷される品目ほど困難 |
最下行が現実的な壁です。木材チップや天然ゴムは、多数の生産者から集荷されて混ざります。混ざった後では、どの区画から来たかを分けられません。したがって、上流の集荷段階で情報を保持する仕組みが必要になります。これはサプライチェーン全体の作り替えに近い作業です(「サプライチェーンとは」)。
自社はどの立場か
| 立場 | 呼び方 | 義務の重さ |
|---|---|---|
| EU市場に最初に出す事業者 | オペレーター | 重い。デューデリジェンスの実施とDDSの提出 |
| その後に流通させる事業者 | トレーダー | 規模により異なる。情報の保持と伝達 |
| EU域外の供給者(日本企業など) | 直接の義務主体ではないことが多い | 取引先から情報提供を求められる立場 |
日本企業の多くは最下行に当たります。自社が直接EUDRの義務を負うわけではないが、EUの顧客から「情報を出してほしい」と求められるという関わり方です。求められたときに答えられなければ、取引が続かない可能性があります。
見落とされやすい ― 移行期の「混在」
適用が始まる前後で、現場にはある状態が生まれます。確認済みの資材と、それ以前からの在庫が混ざるという状態です。
たとえば段ボール。EUDRを意識して供給元から情報を取り始めた分と、それ以前に仕入れて倉庫に積んである分が、同じ棚に並びます。見た目は同じです。
確認が済んでいる在庫
供給元から必要な情報を取得済み
**それ以前からの在庫**
情報がない、または不十分。**現物は見分けがつかない**
同じ場所に置かれる
現場は「段ボールは段ボール」として扱う
EU向け出荷で使ってしまう
**顧客へ情報を出せない出荷が発生する**
この種の混在は、規制対応でしばしば起きます。制度が変わる境目に、旧在庫という形で問題が残るという構図です。対策としては、置き場を分ける、識別できるようにする、使用時に確認するといった方法がありますが、いずれも現場の運用に手を入れることになります。
包装材は「品目」として管理されていないことが多い
原材料はロット管理されていても、段ボールや緩衝材は「消耗品」として、まとめて発注し、まとめて使う運用になっている工場が大半です。EUDRのように包装材まで遡及が及ぶ規制では、この管理の粗さがそのまま弱点になります。
よくある誤解
- 「食品業界の規制」:木材とゴムが対象なので、紙・段ボール・工業用ゴム部品を使う製造業にも及びます
- 「原産国が分かっていれば足りる」:求められるのは生産地の地理座標です。国レベルでは足りません
- 「また延期されるだろう」:延期されても要求の中身は軽くなりません。準備に時間がかかる作業です
- 「日本企業は対象外」:直接の義務主体でなくても、EUの取引先から情報提供を求められます
- 「森林破壊さえなければよい」:生産国の法令に適合していることも求められます
まとめ
- EUDRは森林破壊に関わった産品をEU市場から排除する規則
- 対象は木材・ゴム・パーム油・大豆・牛・コーヒー・カカオの7品目と派生製品
- 木材由来の紙・段ボールが含まれるため、包装材を使う製造業にも関わる
- 適用は延期され、中規模・大規模は2026年12月30日、零細・小規模は2027年6月30日とされている
- 実務の壁は生産地の地理座標。混ざる品目ほど、上流で情報を保つ仕組みが要る
- 移行期には確認済みの資材と旧在庫が混ざる。包装材は品目として管理されていないことが多く、ここが弱点になる
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
正直にお伝えすると、QUALIKEEP はEUDRへの対応システムではありません。デューデリジェンスの実施、地理座標の収集、DDSの作成・提出、リスク評価——いずれも対象外です。QUALIKEEP が関われるのは、受け取った材料のロットと、その使用先を記録しておくという限られた部分です。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| 材料ロットの受入・使用記録 | いつ、どのロットを受け入れ、どこに使ったかの記録 | —— |
| 受入書類との紐づけ | 証明書などを受入記録に結びつけて保持(「受入検査とCoA」) | —— |
| 地理座標の収集・管理 | (該当なし) | 生産地の座標を集め、検証する仕組みは対象外 |
| DDS(宣誓書)の作成・提出 | (該当なし) | EUのシステムへの提出は対象外 |
| リスク評価 | (該当なし) | 森林破壊リスクの評価・国別リスク区分の判定は行いません |
| 供給者調査 | (該当なし) | 上流サプライヤーへの調査・監査は対象外 |
| 通関・法的な結果 | (該当なし) | EU通関での差止や処分を回避することを保証するものではありません。適合の判断は事業者と専門家の領域です |
つまり、「取引先から特定ロットについて問い合わせが来たとき、そのロットをいつ受け入れ、どの製品に使ったかを示せる」という一点です。EUDRへの対応そのものは、調達部門と専門のサービスの領域になります。
取引先から問い合わせが来たとき、そのロットの使用先を示せますか。
飲食・食品の現場での使い方を見る →ご注意
本記事は公開情報をもとにした一般的な解説です。EUDRは適用時期・要求内容の変更が繰り返されている領域です。実際の対応にあたっては、欧州委員会の最新情報、ジェトロ等の解説、および取引先の要求をご確認ください。
参考・出典
※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。