この記事の要点SUMMARY
- なぜなぜ分析は原因を掘り下げる手法だが、掘る方向を間違えると人の責任に着地して終わる
- 「注意不足だった」で止まるのは掘り下げ不足。なぜ注意しないとできない作業なのか、まで進める
- 真因の判定は「そこを直せば再発しないか」「逆に辿って筋が通るか」の2つで確かめる
不具合が起きたとき、「なぜ」を繰り返して根本原因に迫る——なぜなぜ分析は広く使われている手法です。ところが実際の分析シートを見ると、多くが同じ場所に着地しています。「作業者の確認不足」「教育が不十分だった」。そして対策は「再教育の実施」「ダブルチェックの徹底」。そして数年後、同じ不具合が再発します。この記事では、なぜそうなるのかと、どう進めればよいのかを整理します。
なぜなぜ分析が求められる背景
不具合には、必ず直接の原因があります。しかしそこを直しても、同じことが繰り返されることがあります。
事象:規格外の製品が出荷された
起きたこと
直接原因:検査で見逃した
ここで止めると「検査の徹底」で終わる
その奥:なぜ見逃せる状態だったのか
判定基準が曖昧、照明が暗い、検査数が多すぎる…
**真因:そこを直せば再発しない点**
仕組みとして変えられる場所
進め方の基本
| 手順 | すること | ポイント |
|---|---|---|
| ① 事象を書く | 起きたことを事実として書く | 「〜が悪い」ではなく「〜が起きた」と書く |
| ② なぜ①が起きたか | 直前の原因を書く | 推測ではなく確認できた事実で |
| ③〜⑥ 繰り返す | 一段ずつ掘り下げる | 飛ばさない。1段で2つ進めない |
| ⑦ 真因の確認 | 逆から読んで筋が通るか | 「だから」でつながるか |
| ⑧ 対策 | 真因に対する対策を立てる | 人の注意に頼らない形を優先 |
「5回」は目安であって規則ではありません
3回で真因に届くこともあれば、7回必要なこともあります。「5回まで書く欄があるから埋める」という運用になると、途中から無理やり広げた内容が入り込みます。回数ではなく、「そこを直せば再発しないか」で止める場所を判断してください。
最大の失敗 ― 人に向かって掘ってしまう
なぜなぜ分析でもっとも起きやすい失敗が、掘る方向が人に向かうことです。
事象:違う材料を投入した
出発点は同じ
**人へ向かう掘り方**
なぜ→確認しなかった→なぜ→急いでいた→なぜ→本人の意識が低い → **対策:注意喚起・再教育**
**仕組みへ向かう掘り方**
なぜ→確認しなかった→なぜ→確認しても分からない状態だった→なぜ→**容器の見た目が同じで表示もなかった** → 対策:識別できるようにする
同じ「確認しなかった」から出発しても、次の一手で行き先が変わります。「なぜ確認しなかったのか(人)」ではなく「なぜ確認できない状態だったのか(仕組み)」と問うのが分かれ目です。
| 止まりやすい表現 | 書き換えの方向 |
|---|---|
| 注意不足だった | なぜ注意しないとできない作業なのか |
| 教育が不十分だった | なぜ教育しないとできないのか。教育なしでもできる形にできないか |
| うっかりしていた | うっかりしても間違えられない形にできないか |
| 急いでいた | なぜ急ぐ状況が生まれたのか(要員、計画、指示) |
| 慣れによる油断 | 慣れても間違えない仕組みになっているか |
| 引き継ぎが悪かった | なぜ口頭に頼る引き継ぎになっているのか |
人が出てきたら、もう一段だけ掘る
実務的なコツとして、「人」が主語になった時点で必ずもう一段掘るというルールを置くと、分析の質が安定します。「作業者が間違えた」は結論ではなく、そこから「なぜ間違えられる状態なのか」へ進む中間地点です。
もう一つの失敗 ― 掘りすぎる
逆方向の失敗もあります。掘り続けた結果、手の届かない場所に着地するというものです。
| 行き過ぎた着地 | なぜ問題か |
|---|---|
| 「経営の方針が悪い」 | 現場では対策が打てない |
| 「業界全体の慣習」 | 同上 |
| 「人手不足だから」 | 正しいかもしれないが、明日から何もできない |
| 「予算がないから」 | 対策が「予算をつける」だけになる |
真因は、自分たちの手が届く範囲でもっとも根本に近い場所にあります。掘り下げが浅いのも問題ですが、対策が打てない場所まで進むのも分析としては失敗です。
真因かどうかを確かめる2つの問い
検算①:逆から読んで筋が通るか
「容器に表示がなかった → だから見分けられなかった → だから違う材料を入れた」と読み返して自然か
検算②:そこを直せば再発しないか
**表示を付ければ、この不具合は起きなくなるか**。ならない場合、まだ奥がある
②で「たぶん減る」程度なら、真因に届いていない可能性があります。「起きなくなる」と言い切れる場所を探してください。
対策の強さには順番がある
真因が見つかったら、対策を立てます。ここでも順番があり、上にあるものほど人の状態に左右されません。
| 強さ | 対策の型 | 例 |
|---|---|---|
| 強い | そもそも起こりえなくする | 構造上、間違った向きでは付かない。違う材料は物理的に入らない |
| ↑ | 間違うと分かる/進めない | 違う組み合わせだと次に進めない、警告が出る |
| ↑ | 気づきやすくする | 色を変える、置き場を分ける、表示を大きくする |
| ↓ | 手順を変える | チェック項目の順序を変える、判断を減らす |
| 弱い | 注意・教育・二重確認 | 朝礼で周知、再教育、ダブルチェック |
最下段が不要という意味ではありません。教育は必要です。ただしそれだけを再発防止策として提出すると、「なぜ一人目が見落としたのか」を問われます(考え方は「デジタルポカヨケ」「性善説に頼らない設計」)。
分析の前に必要なもの ― 事実
なぜなぜ分析は、事実の積み重ねの上でしか成立しません。ところが実際には、分析を始めた途端に「記録がない」という壁に当たることがよくあります。
| 確認したいこと | 記録がないと |
|---|---|
| そのとき、どの材料ロットを使っていたか | 材料の影響を検証できない |
| いつ開封したものか | 劣化の可能性を否定も肯定もできない |
| 誰が作業していたか | 手順の解釈の違いを確認できない |
| 前回の切替はいつか | 残留・混入の可能性を追えない |
| 設備の条件はどうだったか | 条件の変動を確認できない |
記録がなければ、分析は推測の積み重ねになります。「たぶん材料は問題なかったはず」という前提で進めた分析は、真因を外す可能性があります。
よくある誤解
- 「5回掘るのが決まり」:回数は目安です。真因に届いたかで判断します
- 「作業者に聞けば原因が分かる」:本人も理由を言語化できないことがあります。「なぜやったか」より「どういう状態だったか」を聞きます
- 「人の責任に行き着くのが正しい分析」:それは分析ではなく責任追及です。次に同じことが起きます
- 「真因は一つ」:複数あることもあります。ただし対策できる粒度に絞る必要があります
- 「分析シートを埋めれば完了」:対策を打ち、効果を確認して初めて終わりです
まとめ
- なぜなぜ分析は原因を掘り下げる手法。「5回」は目安であって規則ではない
- 最大の失敗は掘る方向が人に向かうこと。「なぜ確認しなかったか」ではなく「なぜ確認できない状態だったか」と問う
- 掘りすぎて手の届かない場所に着地するのも失敗。対策が打てる範囲でもっとも根本に近い場所を探す
- 真因の検算は「逆から読んで筋が通るか」「そこを直せば再発しないか」の2つ
- 対策には強さの順番がある。教育や二重確認は必要だが、それだけでは根本対策と見なされにくい
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
正直にお伝えすると、QUALIKEEP は分析を支援するツールではありません。なぜなぜ分析のシートを作る機能も、是正処置を管理する機能もありません。QUALIKEEP が関われるのは、分析の前提になる事実——「そのとき何を使っていたか」という記録の部分だけです。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| そのときの材料 | 使用したロット・開封日・期限の記録 | —— |
| 作業した人と時刻 | スキャンした人とサーバー同期時刻 | —— |
| なぜなぜ分析の実施 | (該当なし) | 分析シートの作成、是正処置(CAPA)の進捗管理、8Dレポートの作成・提出はいずれも対象外 |
| 原因の判定 | (該当なし) | 真因かどうかの判断は行いません |
| 設備・工程条件 | (該当なし) | 温度や圧力などの条件は設備側の記録装置の領域 |
| ミスの防止 | 保証しません | 現場のあらゆる作業ミスをなくすことを保証するものではありません。スキャンする運用が定着していない場面や、スキャン対象外の作業には効きません |
つまり、分析の席で「そのとき使っていた材料は?」と聞かれたときに、推測ではなく記録で答えられる状態を作る道具です。分析そのものは、現場と品質部門の仕事になります。
ご注意
本記事は一般的な解説です。是正処置の手順や顧客へ提出する報告書の様式は、業界や取引先の要求によって異なります。実際の運用は自社の規定と顧客要求に従ってください。
参考・出典
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