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NO.090品質保証 / 現場DX

測定システム解析(MSA・Gage R&R)とは?― 測る道具と人を疑うという発想

データを分析する前に、そのデータを生んだ測定そのものを評価するのがMSAです。繰返し性と再現性(Gage R&R)、%GRRの目安、区別できる区分数(ndc)、そして「不良と判定した製品が実は良品だった」という事態がなぜ起きるのかを、図表を交えて整理します。

公開QUALIKEEP 編集部

この記事の要点SUMMARY

  • MSAは測定によって生じるばらつきを評価する手法。データを分析する前段に位置する
  • Gage R&Rは繰返し性(同じ人が測り直したときの差)と再現性(人による差)を分けて見る
  • 測定のばらつきが大きいと、良品を不良と判定したり、その逆が起きる

「寸法がばらついている」——そう判断したとき、そのばらつきは本当に製品のものでしょうか。同じ製品を2回測れば違う値が出る。人が変われば違う値が出る。このとき見ているのは製品のばらつきではなく、測定のばらつきかもしれません。MSA(測定システム解析)は、この問いに答えるための手法です。

見えているばらつきの正体

測定して得られたデータのばらつきは、2つのものが混ざっています。

**観測されたばらつき**

データとして見えているもの

**製品そのもののばらつき**

本当に知りたいもの。工程改善の対象

**測定によるばらつき**

**測定器・測定方法・測る人から生じるもの**。製品とは無関係

観測されたばらつき=製品のばらつき+測定のばらつき

測定のばらつきが大きいと、何が起きるか。工程を改善しても効果が見えません。ばらつきの大半が測定由来なら、製品をどれだけ均一にしても、データ上のばらつきはあまり減らないからです。

Gage R&R ― 2つのRを分ける

MSAの中心にあるのが Gage R&R です。測定のばらつきを2つに分解します。

**繰返し性(Repeatability)****再現性(Reproducibility)**
何の差か同じ人が、同じものを、測り直したときの差人が変わったときの差
原因測定器そのものの性能、環境測る人の癖、手順の解釈の違い
別名装置のばらつき測定者のばらつき
大きいときの対策測定器の見直し、校正、固定方法の改善手順の明確化、教育、測定条件の統一

この2つを分けることに価値があります。どちらが大きいかで、打つべき手がまったく違うからです。

繰返し性が大きい場合

**測定器の問題**。分解能が足りない、固定が甘い、環境の影響を受けている

再現性が大きい場合

**人の問題ではなく、手順の問題**。どこを・どう測るかが決まっていない

判断

測定器を買い替えるべきか、手順書を直すべきかが分かる

同じ「測定のばらつきが大きい」でも、対策は正反対

再現性の大きさは「人の技量差」ではありません

人によって測定値が違うと、「あの人の測り方が下手だ」という話になりがちです。しかし多くの場合、原因は手順にあります。ノギスをどこに当てるか、どれくらいの力で挟むか、何回測るか——これらが決まっていなければ、人によって違う値が出るのは当然です。再現性が大きいときは、教育の前に手順を疑ってください。

評価の見方 ― %GRR

Gage R&Rの結果は、%GRRという比率で表されます。「全体のばらつきのうち、測定由来が何%を占めるか」です。

%GRR一般的な判断意味
10%未満問題なし測定のばらつきは十分小さい
10〜30%条件付きで許容重要度・費用・実現性を考慮して判断する
30%超不可測定のばらつきが大きすぎる。改善が必要

この目安は自動車業界のMSAの考え方として広く使われているものです。顧客が独自の基準を持っている場合はそちらが優先されます。

もう一つの指標 ― 区別できる段階の数

%GRRとあわせて見られるのが、ndc(区別できる区分数)です。「その測定システムで、製品の違いを何段階に区別できるか」を表します。

ndc意味
1〜3ほとんど区別できない。良否の判定程度にしか使えない
5以上一般に求められる水準。製品の違いを段階として捉えられる

ndcが小さいということは、製品ごとの違いが測定のノイズに埋もれている状態です。この状態で工程能力を計算しても、意味のある値にはなりません(「工程能力指数とは」)。

何が起きるのか ― 誤判定

測定のばらつきが大きいと、実務で最も困ることが起きます。合否の判定を間違えるのです。

実際の製品測定値判定結果
規格内(良品)測定誤差で規格外へ不合格良品を捨てる(損失)
規格外(不良)測定誤差で規格内へ合格不良が流出する(クレーム)
規格の境界付近測るたびに変わる不安定再測定を繰り返す、判定が人による

3行目の「境界付近で測るたびに値が変わる」は、現場で頻繁に起きています。そして多くの場合、合格が出るまで測り直されます。これは意図的な不正というより、「たまたま外れただけだろう」という判断の積み重ねで起きます。測定システムが信頼できていれば、そもそもこの迷いが生まれません。

「再測定してよい条件」を決めておく

測定値が規格を外れたとき、どういう場合に再測定してよいかが決まっていない現場は多くあります。決まっていないと、外れたときだけ測り直すという運用になり、データが片側に偏ります。再測定の条件と、その記録の残し方まで決めておくのが実務的です。

校正との違い

校正は「的の中心のずれ」、MSA は「矢の散らばり」を見る理想かたより 小ばらつき 小校正でずれているかたより 大ばらつき 小ばらついているかたより 小ばらつき 大両方だめかたより 大ばらつき 大かたよりは校正で直す。ばらつきは Gage R&R で評価し、測定器や手順を見直す。校正済みでもばらつく測定器はある
図 的の中心からのずれがかたより(校正で直す)、矢の散らばりがばらつき(Gage R&R で評価する)。両方が必要

混同されやすいのが校正(キャリブレーション)です。両者は別のものを見ています。

**校正****MSA(Gage R&R)**
見るもの正しい値からのずれ(かたより)測るたびのばらつき
方法標準器と比べる同じものを複数の人が複数回測る
分かること目盛りが合っているか測定が安定しているか
実施者校正機関、または社内の校正現場の測定者
例え的の中心がずれていないか矢の散らばりが小さいか

最下行の例えが分かりやすいでしょう。校正済みでも、ばらつきが大きい測定器はあります。逆に、ばらつきは小さいが目盛りがずれている測定器もあります。両方が必要です。

実施の流れ

① 準備

実際の工程のばらつきを代表する製品を10個程度選ぶ

② 測定者を決める

普段その測定をしている人を2〜3名

③ 測定

**各人が各製品を2〜3回測る**。順番は無作為に、どの製品か分からない状態で

④ 解析

繰返し性・再現性を分けて計算する

⑤ 判断と改善

%GRRとndcで評価し、どちらが大きいかで対策を決める

複数の人が、複数の製品を、複数回測る

③の「どの製品か分からない状態で」が重要です。測定者が「さっき測ったあの製品だ」と分かると、前回の値に引きずられます。無作為な順序にする、番号を隠すといった配慮が要ります。

よくある誤解

  • 「校正していればMSAは不要」:見ているものが違います。かたよりとばらつきは別です
  • 「再現性が大きい=作業者の技量不足」:多くは手順の曖昧さが原因です。教育の前に手順を疑います
  • 「高価な測定器なら問題ない」:固定方法、環境、手順が悪ければばらつきます
  • 「測定は正確なものだ」:あらゆる測定に不確かさがあります。それを前提に運用します
  • 「規格外が出たら測り直せばよい」:条件を決めずに測り直すと、データが偏ります

まとめ

  • 観測されるばらつきには、製品のばらつきと測定のばらつきが混ざっている
  • Gage R&Rは繰返し性(測定器由来)と再現性(人・手順由来)を分けて評価する
  • %GRRは10%未満で問題なし、10〜30%は条件付き、30%超は改善が必要というのが一般的な目安
  • 測定のばらつきが大きいと、良品を捨てたり不良を流したりする誤判定が起きる
  • 校正はかたよりを、MSAはばらつきを見る。両方が必要

この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること

正直にお伝えすると、QUALIKEEP は測定システムを評価するツールではありません。測定データの収集、Gage R&Rの計算、測定器の校正管理——いずれも対象外です。

ただし、測定の信頼性という文脈で一点だけ関わる領域があります。検査・分析に使う試薬や標準液の期限です。

領域QUALIKEEP が担える範囲対象外(他の仕組みで扱う領域)
試薬・標準液の期限受入・開封・使用期限の記録と、期限切れのスキャン判定——
消耗品のロット記録どのロットの試薬をいつ使ったかの記録——
測定器の校正管理(該当なし)校正周期の管理、校正台帳、校正証明書の管理はいずれも対象外
測定データの収集(該当なし)測定器と接続してデータを取り込む機能はありません
Gage R&Rの計算(該当なし)%GRRやndcの算出・解析は専用ソフトや表計算の領域
測定の正しさ保証しません誤判定や測定誤差をなくすものではありません。測定システムそのものの評価はMSAで行ってください

期限を過ぎた試薬や、開封から時間が経った標準液を使えば、測定値そのものが信用できなくなります。MSAで測定器と手順を整えても、消耗品の状態が管理されていなければ足元が崩れる——という関係です。ラボや検査室での運用に限られますが、測定の信頼性という点ではつながっています。

検査に使う試薬、開封からの期限は追えていますか。

ラボ・検査室での使い方を見る →機械・電子部品の現場での使い方を見る →

ご注意

本記事は一般的な解説です。%GRRやndcの判定基準、実施手順は、参照するマニュアルや顧客要求によって異なります。実際の運用は、適用される要求事項に従ってください。

参考・出典

  1. 日本規格協会(JSA)
  2. 産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)

※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。

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