この記事の要点SUMMARY
- MSAは測定によって生じるばらつきを評価する手法。データを分析する前段に位置する
- Gage R&Rは繰返し性(同じ人が測り直したときの差)と再現性(人による差)を分けて見る
- 測定のばらつきが大きいと、良品を不良と判定したり、その逆が起きる
「寸法がばらついている」——そう判断したとき、そのばらつきは本当に製品のものでしょうか。同じ製品を2回測れば違う値が出る。人が変われば違う値が出る。このとき見ているのは製品のばらつきではなく、測定のばらつきかもしれません。MSA(測定システム解析)は、この問いに答えるための手法です。
見えているばらつきの正体
測定して得られたデータのばらつきは、2つのものが混ざっています。
**観測されたばらつき**
データとして見えているもの
**製品そのもののばらつき**
本当に知りたいもの。工程改善の対象
**測定によるばらつき**
**測定器・測定方法・測る人から生じるもの**。製品とは無関係
測定のばらつきが大きいと、何が起きるか。工程を改善しても効果が見えません。ばらつきの大半が測定由来なら、製品をどれだけ均一にしても、データ上のばらつきはあまり減らないからです。
Gage R&R ― 2つのRを分ける
MSAの中心にあるのが Gage R&R です。測定のばらつきを2つに分解します。
| **繰返し性(Repeatability)** | **再現性(Reproducibility)** | |
|---|---|---|
| 何の差か | 同じ人が、同じものを、測り直したときの差 | 人が変わったときの差 |
| 原因 | 測定器そのものの性能、環境 | 測る人の癖、手順の解釈の違い |
| 別名 | 装置のばらつき | 測定者のばらつき |
| 大きいときの対策 | 測定器の見直し、校正、固定方法の改善 | 手順の明確化、教育、測定条件の統一 |
この2つを分けることに価値があります。どちらが大きいかで、打つべき手がまったく違うからです。
繰返し性が大きい場合
**測定器の問題**。分解能が足りない、固定が甘い、環境の影響を受けている
再現性が大きい場合
**人の問題ではなく、手順の問題**。どこを・どう測るかが決まっていない
判断
測定器を買い替えるべきか、手順書を直すべきかが分かる
再現性の大きさは「人の技量差」ではありません
人によって測定値が違うと、「あの人の測り方が下手だ」という話になりがちです。しかし多くの場合、原因は手順にあります。ノギスをどこに当てるか、どれくらいの力で挟むか、何回測るか——これらが決まっていなければ、人によって違う値が出るのは当然です。再現性が大きいときは、教育の前に手順を疑ってください。
評価の見方 ― %GRR
Gage R&Rの結果は、%GRRという比率で表されます。「全体のばらつきのうち、測定由来が何%を占めるか」です。
| %GRR | 一般的な判断 | 意味 |
|---|---|---|
| 10%未満 | 問題なし | 測定のばらつきは十分小さい |
| 10〜30% | 条件付きで許容 | 重要度・費用・実現性を考慮して判断する |
| 30%超 | 不可 | 測定のばらつきが大きすぎる。改善が必要 |
この目安は自動車業界のMSAの考え方として広く使われているものです。顧客が独自の基準を持っている場合はそちらが優先されます。
もう一つの指標 ― 区別できる段階の数
%GRRとあわせて見られるのが、ndc(区別できる区分数)です。「その測定システムで、製品の違いを何段階に区別できるか」を表します。
| ndc | 意味 |
|---|---|
| 1〜3 | ほとんど区別できない。良否の判定程度にしか使えない |
| 5以上 | 一般に求められる水準。製品の違いを段階として捉えられる |
ndcが小さいということは、製品ごとの違いが測定のノイズに埋もれている状態です。この状態で工程能力を計算しても、意味のある値にはなりません(「工程能力指数とは」)。
何が起きるのか ― 誤判定
測定のばらつきが大きいと、実務で最も困ることが起きます。合否の判定を間違えるのです。
| 実際の製品 | 測定値 | 判定 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 規格内(良品) | 測定誤差で規格外へ | 不合格 | 良品を捨てる(損失) |
| 規格外(不良) | 測定誤差で規格内へ | 合格 | 不良が流出する(クレーム) |
| 規格の境界付近 | 測るたびに変わる | 不安定 | 再測定を繰り返す、判定が人による |
3行目の「境界付近で測るたびに値が変わる」は、現場で頻繁に起きています。そして多くの場合、合格が出るまで測り直されます。これは意図的な不正というより、「たまたま外れただけだろう」という判断の積み重ねで起きます。測定システムが信頼できていれば、そもそもこの迷いが生まれません。
「再測定してよい条件」を決めておく
測定値が規格を外れたとき、どういう場合に再測定してよいかが決まっていない現場は多くあります。決まっていないと、外れたときだけ測り直すという運用になり、データが片側に偏ります。再測定の条件と、その記録の残し方まで決めておくのが実務的です。
校正との違い
混同されやすいのが校正(キャリブレーション)です。両者は別のものを見ています。
| **校正** | **MSA(Gage R&R)** | |
|---|---|---|
| 見るもの | 正しい値からのずれ(かたより) | 測るたびのばらつき |
| 方法 | 標準器と比べる | 同じものを複数の人が複数回測る |
| 分かること | 目盛りが合っているか | 測定が安定しているか |
| 実施者 | 校正機関、または社内の校正 | 現場の測定者 |
| 例え | 的の中心がずれていないか | 矢の散らばりが小さいか |
最下行の例えが分かりやすいでしょう。校正済みでも、ばらつきが大きい測定器はあります。逆に、ばらつきは小さいが目盛りがずれている測定器もあります。両方が必要です。
実施の流れ
① 準備
実際の工程のばらつきを代表する製品を10個程度選ぶ
② 測定者を決める
普段その測定をしている人を2〜3名
③ 測定
**各人が各製品を2〜3回測る**。順番は無作為に、どの製品か分からない状態で
④ 解析
繰返し性・再現性を分けて計算する
⑤ 判断と改善
%GRRとndcで評価し、どちらが大きいかで対策を決める
③の「どの製品か分からない状態で」が重要です。測定者が「さっき測ったあの製品だ」と分かると、前回の値に引きずられます。無作為な順序にする、番号を隠すといった配慮が要ります。
よくある誤解
- 「校正していればMSAは不要」:見ているものが違います。かたよりとばらつきは別です
- 「再現性が大きい=作業者の技量不足」:多くは手順の曖昧さが原因です。教育の前に手順を疑います
- 「高価な測定器なら問題ない」:固定方法、環境、手順が悪ければばらつきます
- 「測定は正確なものだ」:あらゆる測定に不確かさがあります。それを前提に運用します
- 「規格外が出たら測り直せばよい」:条件を決めずに測り直すと、データが偏ります
まとめ
- 観測されるばらつきには、製品のばらつきと測定のばらつきが混ざっている
- Gage R&Rは繰返し性(測定器由来)と再現性(人・手順由来)を分けて評価する
- %GRRは10%未満で問題なし、10〜30%は条件付き、30%超は改善が必要というのが一般的な目安
- 測定のばらつきが大きいと、良品を捨てたり不良を流したりする誤判定が起きる
- 校正はかたよりを、MSAはばらつきを見る。両方が必要
この分野を扱うなら ― QUALIKEEP でできること
正直にお伝えすると、QUALIKEEP は測定システムを評価するツールではありません。測定データの収集、Gage R&Rの計算、測定器の校正管理——いずれも対象外です。
ただし、測定の信頼性という文脈で一点だけ関わる領域があります。検査・分析に使う試薬や標準液の期限です。
| 領域 | QUALIKEEP が担える範囲 | 対象外(他の仕組みで扱う領域) |
|---|---|---|
| 試薬・標準液の期限 | 受入・開封・使用期限の記録と、期限切れのスキャン判定 | —— |
| 消耗品のロット記録 | どのロットの試薬をいつ使ったかの記録 | —— |
| 測定器の校正管理 | (該当なし) | 校正周期の管理、校正台帳、校正証明書の管理はいずれも対象外 |
| 測定データの収集 | (該当なし) | 測定器と接続してデータを取り込む機能はありません |
| Gage R&Rの計算 | (該当なし) | %GRRやndcの算出・解析は専用ソフトや表計算の領域 |
| 測定の正しさ | 保証しません | 誤判定や測定誤差をなくすものではありません。測定システムそのものの評価はMSAで行ってください |
期限を過ぎた試薬や、開封から時間が経った標準液を使えば、測定値そのものが信用できなくなります。MSAで測定器と手順を整えても、消耗品の状態が管理されていなければ足元が崩れる——という関係です。ラボや検査室での運用に限られますが、測定の信頼性という点ではつながっています。
ご注意
本記事は一般的な解説です。%GRRやndcの判定基準、実施手順は、参照するマニュアルや顧客要求によって異なります。実際の運用は、適用される要求事項に従ってください。
参考・出典
※ 外部サイトの内容・URL は変更される場合があります。最新の情報は各機関の公式ページをご確認ください。